ローマで信仰された謎の宗教の実体「異教のローマ ミトラス教とその時代」
少し前、エジプトで信仰されていたローマの宗教について調べていた。その一つがミトラス教/ミトラス秘儀。
これはエジプトでは痕跡こそあるものの、あまり流行っていた形跡がないため、おそらく一部の人だけの宗教で終わったのだろうと思われる。
エジプトに上陸したミトラス秘儀の痕跡についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/514406626.html
で、調べていたときにミトラス教の歴史や分布についてまとまってる本があることに気づいたので、さっそく読んでみることにした。

異教のローマ ミトラス教とその時代 (講談社選書メチエ) - 井上文則
まず前提として、このミトラス教は「ローマ帝国領内で発生した独自の宗教」である。
ミトラという神自体は古くから知られており、おそらくインド起源で、ヒッタイト帝国とミタンニの条約にも登場する。
ペルシアでも信仰されていた神だが、ペルシアでの信仰の内容とローマでの信仰内容はかなり違っており、同じ名前の神を使っただけの、ほぼ別物の宗教と言っていい。
厳密な階級制度や教義などもあったようだが、実体は「新興宗教」であり、おそらく紀元後1世紀あたり誰か頭のいい教祖が建て付けをしたものと思われる。男性のみを対象としていて、信仰していたのは兵士、奴隷。つまり、その階級出身か、関係の深かった人物が教祖だったのだろう。
ローマ帝国内で広く宗教の痕跡が分布しているのも、信者である兵士たちが各地に赴任していったからと考えられる。
古代の話なので秘儀とかカッコよく呼ばれてるけど、現代で言うとカルト宗教かな…。
あと男性のみの宗教で、男性に花嫁という役割をさせることがあったようで、腐女子に見つかるとえらいことになる予感がする。
で、この宗教、面白いことにローマ周辺やミトラ神の発祥地に近いペルシアなどではほぼ受け入れられず、帝国の西方、当時まだ文明化が進んでおらず「未開の地」とされていたあたりでより広く受け入れられた痕跡があるという。
これは、「まあそうだろうな…」という感じ。

ミトラ神のもともとの信仰があるところに、新解釈のカルトが入り込めるわけもない。
そして東地中海世界といえば、古代エジプト宗教、ギリシャ宗教に相乗りしたローマの神々、ユダヤ教、誕生間もないキリスト教、ゾロアスター教など、伝統があり教義の建付けもしっかりした強力な宗教が幾重にも布教されていた。そこから信者を奪うのはかなり難しい。
対して西方は、まだそれら東地中海世界の宗教があまり入ってきておらず、宗教的な空白地帯だったために入り込みやすかったのだろう、というのが、この本の意見である。これは一理ある。
最終的に、帝国の国策としてキリスト教が西方にも広められていくのだが、ミトラス教とは需要(信仰する層)が違うため、勢力圏を塗り替えたというよりは丸ごと上書きに近い分布になっているかなという感じ。

宗教には、需要と供給という側面もある。民衆の求めるものが教義や宗教の副産物の中にあれば、受けいれられやすい。
ミトラス教が後世に生き残れなかったのは、キリスト教との競争に負けたわけではない。そもそも異なる需要に対する供給だったわけで、単純にニッチを狙いすぎたか、発展の余地が少なかったのだろう。
あと、この本の最後に出てきた「ミトラス教はフリーメーソンの在り方に似ている」という指摘は、なるほどと思った。
確かに秘儀で繋がった秘密の兄弟ってあたり秘密結社要素もある。
「もしローマがキリスト教を広めなかったら西方世界はミトラス教優勢のままだったのか」という歴史ifも、面白い視点だなと思った。男性がミトラ、女性がイシスに傾倒するif世界も、ありえたかもしれない。
これはエジプトでは痕跡こそあるものの、あまり流行っていた形跡がないため、おそらく一部の人だけの宗教で終わったのだろうと思われる。
エジプトに上陸したミトラス秘儀の痕跡についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/514406626.html
で、調べていたときにミトラス教の歴史や分布についてまとまってる本があることに気づいたので、さっそく読んでみることにした。

異教のローマ ミトラス教とその時代 (講談社選書メチエ) - 井上文則
まず前提として、このミトラス教は「ローマ帝国領内で発生した独自の宗教」である。
ミトラという神自体は古くから知られており、おそらくインド起源で、ヒッタイト帝国とミタンニの条約にも登場する。
ペルシアでも信仰されていた神だが、ペルシアでの信仰の内容とローマでの信仰内容はかなり違っており、同じ名前の神を使っただけの、ほぼ別物の宗教と言っていい。
厳密な階級制度や教義などもあったようだが、実体は「新興宗教」であり、おそらく紀元後1世紀あたり誰か頭のいい教祖が建て付けをしたものと思われる。男性のみを対象としていて、信仰していたのは兵士、奴隷。つまり、その階級出身か、関係の深かった人物が教祖だったのだろう。
ローマ帝国内で広く宗教の痕跡が分布しているのも、信者である兵士たちが各地に赴任していったからと考えられる。
古代の話なので秘儀とかカッコよく呼ばれてるけど、現代で言うとカルト宗教かな…。
あと男性のみの宗教で、男性に花嫁という役割をさせることがあったようで、腐女子に見つかるとえらいことになる予感がする。
で、この宗教、面白いことにローマ周辺やミトラ神の発祥地に近いペルシアなどではほぼ受け入れられず、帝国の西方、当時まだ文明化が進んでおらず「未開の地」とされていたあたりでより広く受け入れられた痕跡があるという。
これは、「まあそうだろうな…」という感じ。

ミトラ神のもともとの信仰があるところに、新解釈のカルトが入り込めるわけもない。
そして東地中海世界といえば、古代エジプト宗教、ギリシャ宗教に相乗りしたローマの神々、ユダヤ教、誕生間もないキリスト教、ゾロアスター教など、伝統があり教義の建付けもしっかりした強力な宗教が幾重にも布教されていた。そこから信者を奪うのはかなり難しい。
対して西方は、まだそれら東地中海世界の宗教があまり入ってきておらず、宗教的な空白地帯だったために入り込みやすかったのだろう、というのが、この本の意見である。これは一理ある。
最終的に、帝国の国策としてキリスト教が西方にも広められていくのだが、ミトラス教とは需要(信仰する層)が違うため、勢力圏を塗り替えたというよりは丸ごと上書きに近い分布になっているかなという感じ。

宗教には、需要と供給という側面もある。民衆の求めるものが教義や宗教の副産物の中にあれば、受けいれられやすい。
ミトラス教が後世に生き残れなかったのは、キリスト教との競争に負けたわけではない。そもそも異なる需要に対する供給だったわけで、単純にニッチを狙いすぎたか、発展の余地が少なかったのだろう。
あと、この本の最後に出てきた「ミトラス教はフリーメーソンの在り方に似ている」という指摘は、なるほどと思った。
確かに秘儀で繋がった秘密の兄弟ってあたり秘密結社要素もある。
「もしローマがキリスト教を広めなかったら西方世界はミトラス教優勢のままだったのか」という歴史ifも、面白い視点だなと思った。男性がミトラ、女性がイシスに傾倒するif世界も、ありえたかもしれない。