アレキサンダー大王の父・フィリッポス2世の墓ではとされたヴェルギナ1号墓の被葬者、大王の父ではないと否定される
ヴェルギナ1号墓の被葬者の骨の再調査が行われ、以前流れていた「フィリッポス2世の墓で確定!」という情報が否定された。というか前回のと調査に致命的な問題があったらしいことも発覚して、なんだこりゃ状態。
元論文を読まずに適当に書く記事もそのうち出てくると思うので、そうなる前に内容をまとめておく。
元論文
New scientific evidence for the history and occupants of Tomb I (“Tomb of Persephone”) in the Great Tumulus at Vergina
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305440325000834?via%3Dihub
ちなみに前回(2015年)に出た調査に関する記事はこれ。
それまで2号墓がフィリッポス2世の墓とされてきたところに、1号墓のほうの被葬者がフィリッポス2世だとぶっこんで論争になったやつである。
アレクサンドロス大王の父の墳墓を特定か 古代文献に記された脚の傷跡を分析、従来説覆すか
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/072300194/
まず前提からなのだが、現代名: ヴェルギナ は 古代都市アイガイと特定されとおり、マケドニア王家の墓がいくつか纏まって作られている。
1号墓(通称「ペルセポネの墓」)の周囲には、同じくらい豪華な2号墓、そして王子の墓と呼ばれる3号墓と、4号墓がある。

フィリッポス2世は2墓に埋葬されたとするのが一般説だったが、2015年の調査結果の発表いらい、1号墓のほうかも、と言われるようになっていた。1号墓には、同時に埋葬されたと見られる成人男女の遺骨と乳児の遺骨があったため、女性は、フィリッポスの最後の妻であるクレオパトラ・エウリュディケのもので、乳児は生まれて間もない娘だったのでは、とされたのだ。
しかし今回の調査で、1号墓の被葬者については以下が判明している。
・男性の骨:
死亡時に25~35歳と判定されたためフィリッポス2世にしては若すぎる。
・身長は約167±3cm
・埋葬時期は紀元前400年から367年の間、コラーゲンオフセット補正を適用すると遅くとも紀元前388年から356年
つまりフィリッポス2世の死より1世代くらい早い
・ストロンチウム同位体の測定から、子供の頃にいったん遠方に移住し、死の10年くらい前に戻ってきた
・女性の骨:
死亡時に18歳~25歳、男性の骨と同時期に亡くなり埋葬されている
・残存している骨が少ない、装飾品の盗掘のため男性より執拗に荒らされた可能性あり
・乳児の骨:
沢山見つかっているがすべてローマ時代のもの
盗掘されたあと墓が再利用されてる
・2015年に見つかった槍の傷のある足の骨:
DNA鑑定からして全身骨格の見つかっている元の被葬者とは別人、骨の年代も違う
・2015年の報告まで一度も報告書に出てきていない骨
・デジタル光学顕微鏡を使うと、「1969/15」という遺物番号が見える
1969年に発掘された15番目の遺物という印のようだが、ヴェルギナの王墓の発掘は1977年から開始だし、そもそも遺物にこの番号の振り方をしていない。どこか他の遺跡から持ち込まれたと思われる

結論だけまとめると、こんな感じ。うーん!w 前回の調査報告で「これがフィリッポス2世の骨だとする決定的証拠!」って大々的に出された骨が、まさかの「別の遺跡からの持ち込み」という、限りなく黒に近い灰色案件とは思わなかったですね…。
てか今回、DNA鑑定で同一人物の骨かまで出していて、残る男性の骨がすべて1人に由来すること、バラバラになってた女性の骨も一人に由来することまで突き止めているので、これは説得力がある。
そして乳児や胎児の骨は大量にあってすべてローマ時代、っていうのも、笑うしかないな。今まで年代測定ちゃんとやってなかったか、やる技術が無かったんだろうな…。
おそらく盗掘を受けて墓の入口が開きっぱなしになっていた時期に、ローマ時代の親たちが、早世した新生児の骨をここに埋葬してた時期があったのだろうと言われている。
動物の骨も後世のもののようなので、儀式の犠牲獣というよりは、勝手に入り込んだ獣とか、ここがゴミ捨て場だった可能性もあるらしい。
というわけで、情報を総合してみると、1号墓の主はフィリッポス2世の父か兄の可能性のほうが高くなる。
フィリッポス2世の墓は、無難に2号墓のほうとしておくのが正しいのだろう。
説が覆ってまた戻った、みたいな感じなんだけど、「そもそもローマ時代の骨が混じってた」とか「他の遺跡から持ち込まれた骨でした」は予想してなかったパターンなので、どんな顔していいか分からない。
あとギリシャ人全般そうだけど、墓には被葬者の名前書こ? エジプト人みたいに壁にも遺物にもガンガン書こ? そしたらこんな揉めないっつーの…。
****
なお、最近「そんなことあるんかいw」とズッコケそうになった報告としては、以下がある。
ちゃんと調査されてないまま議論されている遺跡って、意外と多いのかもしれない…。
クレオパトラ7世の妹・アルシノエ4世とされていた頭蓋骨、DNA調査の結果「少年」と判明。どうすんのこれ
https://55096962.seesaa.net/article/510563704.html
また、今回の事案がそうかは分からないが、他の遺跡から盗み出された遺物が別の遺跡に紛れ込まされて都合のよい証拠として扱われていた、という事件も過去に起きている。
ヨーロッパ版ゴッドハンド事件…人類の発展と世界進出に関する論文に纏わる疑惑が盗難事件に発展
https://55096962.seesaa.net/article/201801article_21.html
前回の論文書いた学者が、1号墓をフィリッポス2世の墓とするために、都合のよい骨をよその遺跡から運んできた、とかいう話にならないことを祈りたいところだが…。
元論文を読まずに適当に書く記事もそのうち出てくると思うので、そうなる前に内容をまとめておく。
元論文
New scientific evidence for the history and occupants of Tomb I (“Tomb of Persephone”) in the Great Tumulus at Vergina
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305440325000834?via%3Dihub
ちなみに前回(2015年)に出た調査に関する記事はこれ。
それまで2号墓がフィリッポス2世の墓とされてきたところに、1号墓のほうの被葬者がフィリッポス2世だとぶっこんで論争になったやつである。
アレクサンドロス大王の父の墳墓を特定か 古代文献に記された脚の傷跡を分析、従来説覆すか
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/072300194/
まず前提からなのだが、現代名: ヴェルギナ は 古代都市アイガイと特定されとおり、マケドニア王家の墓がいくつか纏まって作られている。
1号墓(通称「ペルセポネの墓」)の周囲には、同じくらい豪華な2号墓、そして王子の墓と呼ばれる3号墓と、4号墓がある。

フィリッポス2世は2墓に埋葬されたとするのが一般説だったが、2015年の調査結果の発表いらい、1号墓のほうかも、と言われるようになっていた。1号墓には、同時に埋葬されたと見られる成人男女の遺骨と乳児の遺骨があったため、女性は、フィリッポスの最後の妻であるクレオパトラ・エウリュディケのもので、乳児は生まれて間もない娘だったのでは、とされたのだ。
しかし今回の調査で、1号墓の被葬者については以下が判明している。
・男性の骨:
死亡時に25~35歳と判定されたためフィリッポス2世にしては若すぎる。
・身長は約167±3cm
・埋葬時期は紀元前400年から367年の間、コラーゲンオフセット補正を適用すると遅くとも紀元前388年から356年
つまりフィリッポス2世の死より1世代くらい早い
・ストロンチウム同位体の測定から、子供の頃にいったん遠方に移住し、死の10年くらい前に戻ってきた
・女性の骨:
死亡時に18歳~25歳、男性の骨と同時期に亡くなり埋葬されている
・残存している骨が少ない、装飾品の盗掘のため男性より執拗に荒らされた可能性あり
・乳児の骨:
沢山見つかっているがすべてローマ時代のもの
盗掘されたあと墓が再利用されてる
・2015年に見つかった槍の傷のある足の骨:
DNA鑑定からして全身骨格の見つかっている元の被葬者とは別人、骨の年代も違う
・2015年の報告まで一度も報告書に出てきていない骨
・デジタル光学顕微鏡を使うと、「1969/15」という遺物番号が見える
1969年に発掘された15番目の遺物という印のようだが、ヴェルギナの王墓の発掘は1977年から開始だし、そもそも遺物にこの番号の振り方をしていない。どこか他の遺跡から持ち込まれたと思われる

結論だけまとめると、こんな感じ。うーん!w 前回の調査報告で「これがフィリッポス2世の骨だとする決定的証拠!」って大々的に出された骨が、まさかの「別の遺跡からの持ち込み」という、限りなく黒に近い灰色案件とは思わなかったですね…。
てか今回、DNA鑑定で同一人物の骨かまで出していて、残る男性の骨がすべて1人に由来すること、バラバラになってた女性の骨も一人に由来することまで突き止めているので、これは説得力がある。
そして乳児や胎児の骨は大量にあってすべてローマ時代、っていうのも、笑うしかないな。今まで年代測定ちゃんとやってなかったか、やる技術が無かったんだろうな…。
おそらく盗掘を受けて墓の入口が開きっぱなしになっていた時期に、ローマ時代の親たちが、早世した新生児の骨をここに埋葬してた時期があったのだろうと言われている。
動物の骨も後世のもののようなので、儀式の犠牲獣というよりは、勝手に入り込んだ獣とか、ここがゴミ捨て場だった可能性もあるらしい。
というわけで、情報を総合してみると、1号墓の主はフィリッポス2世の父か兄の可能性のほうが高くなる。
フィリッポス2世の墓は、無難に2号墓のほうとしておくのが正しいのだろう。
説が覆ってまた戻った、みたいな感じなんだけど、「そもそもローマ時代の骨が混じってた」とか「他の遺跡から持ち込まれた骨でした」は予想してなかったパターンなので、どんな顔していいか分からない。
あとギリシャ人全般そうだけど、墓には被葬者の名前書こ? エジプト人みたいに壁にも遺物にもガンガン書こ? そしたらこんな揉めないっつーの…。
****
なお、最近「そんなことあるんかいw」とズッコケそうになった報告としては、以下がある。
ちゃんと調査されてないまま議論されている遺跡って、意外と多いのかもしれない…。
クレオパトラ7世の妹・アルシノエ4世とされていた頭蓋骨、DNA調査の結果「少年」と判明。どうすんのこれ
https://55096962.seesaa.net/article/510563704.html
また、今回の事案がそうかは分からないが、他の遺跡から盗み出された遺物が別の遺跡に紛れ込まされて都合のよい証拠として扱われていた、という事件も過去に起きている。
ヨーロッパ版ゴッドハンド事件…人類の発展と世界進出に関する論文に纏わる疑惑が盗難事件に発展
https://55096962.seesaa.net/article/201801article_21.html
前回の論文書いた学者が、1号墓をフィリッポス2世の墓とするために、都合のよい骨をよその遺跡から運んできた、とかいう話にならないことを祈りたいところだが…。