山で道に迷ったらどうする?→ 山は事前準備が8割。迷ってからでは遅いです…

たとえば、以下のようなシチュエーションがあったとしよう。

「山で道を見失ってしまった。あと30分ほど歩けば下山口だったはずなのだが、どうも下山道ではない正しくない場所を下ってきてしまったらしく、GPSを見ると正規の登山道から50mほど外れているらしい。紙の登山地図は持ってきていない。あと1時間ほどで日没となり、使える明かりはスマホのみ。どうすればいいか」

この状況から、生還できる方法はどれなのか。

①道を間違えた時点まで登り返す
②もう山の下の方まで来ているので、そのまま下ってどこかに出るのに賭ける
③動かず、その場で救助要請をする

ffg8.png



自分の答えは、①~③のどれも「バカでしょ…その時点でもう詰んでるぞ…」である。

まず山の中のGPSは狂いやすく、特に谷間だと20mくらいズレてることもあるので過信は禁物。目安にしかならない。本当に正規の登山道まで50mだったとしても、山の道以外の場所はとてつもなく歩きにくいため、途中に歩行不可能な場所がある可能性もあり、ヘタに動くと遭難する。

本来は地図を広げて全体図と地形から現在位置の予測をたてるのが全ての行動の始発点だが、全体図のわかる紙の地図が無かったり、地図読みが出来なかったりすると、その時点で終わる。そもそも、どこで道を間違えたのか、どこまで行けば正しいルートに戻れるのかも分からないし、逆に下るにしてもどこに出るのか分からない。

そして「あと30分ほど歩けば下山口」と思って30分以上歩いて下山口につかないということは、間違ったルートを30分も歩いて居た可能性があり、気づくのが遅すぎる。薄々「なんかおかしいな」と思っていたのなら判断も致命的に遅い。最初の10分で気付いてればなんとかなったかもしれない。

1時間ほどで日没なのにまだ下山していないというのも、時間が遅すぎる。夏山なら午後3時には行動が終了するくらいの余裕をもったコースタイムで計画を立てておくのが常識だし、ギリギリまで行動するつもりなら、バッテリ切れを起こしやすいうえに手が塞がってしまうスマホなどではなく、ヘッドランプと万一のビバーク装備くらいは持ってこないとどうしようもない。

山は暗くなるのが早いので、日没前にはもう足元はほとんど見えなくなっているはずだ。
③の「動かず、救助要請」か、もし谷間にいるのなら、せめてわかりやすい尾根までは登り返して次の朝まで待機するのが最も危なくない選択だと思う。

繰り返すが、この状況に陥った時点で、「地図読み/ルート読みのスキルが足りない」「そもそもの登山計画が無茶」「装備不足」と、事前準備における致命的な失敗を3つも重ねている。普通は起きない。
というか、こんな状況になること自体がおかしい。

この遭難は運が悪かったとかではなく、起こるべくして起きた事故であり、たまたま助かったとしても次からも同じような無謀な山行をしていたら、いつか取り返しのつかないことになるのは確実と言える。


せめて、時間に余裕のある計画を立てていたら。
せめて、ヘッドランプを持っていたら。
せめて、歩いている道が登山道ではないことに気付けるくらい山に慣れていれば。

その「せめて」が一つ足りないだけで、「こんなことになるはずなかったのに」という事故は起きる。それが山の容赦無さであり、自然界の厳しさである。



5月の山は遭難者が非常に多かった。自分のよく行く山系でもまだ見つかっていない人が何人かいるし、行ったことがある/これからいく予定の山でも何人か救助されたり亡くなったりしている。

登山の遭難者は右肩上がりであり、死亡者数も多い。よく「死亡するのは高齢者、単独山行の人が多い」と言われるが、高い山では残雪が残っているような春先から初夏にかけての季節は若い人の死亡例も多く、特に、GWなど連休で、普段はあまり登山しない人が山に出かけると、集団での遭難も珍しくは無くなる。

警視庁のデータ
ettt9.png

報道される内容を見ていると、これらの遭難の原因の多くは、さきの例のように「せめてxxなら助かったかもしれないのに…」というようなものである。

単純に体力が足りなくて途中で力尽きた場合は、自分たちの歩くスピードが遅すぎることに気づいて途中で予定を変更すれば良かった。たぶん登山計画が不十分か、コースタイムを測っていなかったか、エスケープルートを考えていなかったなどの事前準備不足。

春山はまだ寒いのに防寒具を持っていなくて低体温で動けなくなったケースでは、まず装備がダメすぎてツッコミどころしかないのだが、ふもとから見上げて山頂に雪があるのくらい見えるのだから、せめて計画を取りやめるくらいは考えても良かった。

雪で道が隠れていたため迷ってしまった人は、絶対「これは思ったよりヤバいな」と思いながら歩いていたはずで、自分の力量を越えるコースに入ってしまったと気づいたなら引き返すべきだった。道迷いのまま30分以上歩いてしまうのと同じで、判断が遅いのと、事前の情報収集不足。最近はSNSでわりとリアルタイムな情報が出ているので、他の人の行った記録を見てれば残雪の量は分かったはず。



登山は事前準備が8割である。

行く予定の山で要求される登山レベルはどのくらいなのか。天気や残雪の具合、登山道が崩落しているなどでルート変更された情報は無いかの事前確認。登山計画と予定コースタイム、もしトラブったりコースタイムが大幅に遅れた時はどうするかも事前に決めておく。当然、登山計画書は出しておく。
そして、万一のことが心配なら、ココヘリとかの救助サービスに登録しておけばいい。

事前準備グダグダのまま、あり得ないシチュエーションで遭難したら、そこから何をしようともう手遅れである。
「人事を尽くして天命を待つ」の「人事を尽くす」べきなのは登山開始前の時点であって、遭難してからではもう遅い。

体力だけで山に登ってはいけない。知識も無いと山から生きて戻れない。
登山者のみなさん…トレランやハイキングのみなさん… 安全登山で生きて帰りましょうね…。