データセンターとは何か。「よくわからんので建設に反対!」というニュースを見かけたので何なのか説明しておく

データセンター建設に反対、とかいう謎のニュースを見かけた。

騒音や排気の問題があるので建設反対とか、得体がしれないから建設反対とかいう謎の論調だったが、ぶっちゃけそれ言ってる人はデジタル社会に適応出来ていないか、何も考えてなくて他の悪い誰かに焚き付けられているかだと思う。申し訳ないが、どれだけ好意的に解釈しても、それ以上に優しく表現することは出来ない…。

だが、知らない人は本当にデータセンターが何なのか、全く知らないものかもしれない。説明を検索しないか、出てきたページの内容がイマイチ理解できないのかもしれない。
というわけで、ITインフラ屋やっててデータセンターへは実家より頻繁に通っている中の人が、一般むけな簡単説明を書いておこうと思う。

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●データセンターは工場なのか

工場ではない。
実体は、大量の機械を常時稼働させておく、建物全体が巨大なコンピューターみたいな施設である。より正確に言うと、中に詰まっているのはサーバーと呼ばれる大型コンピューターと、家庭でインターネット接続に使うルーターの高級版であるネットワーク機器である。それらがケーブルで繋がり、電源を切ることなくずっと稼働し続けている。

サーバーと呼ばれる機器の中身は、あなたのスマホやPCから見えるインターネットの世界の”全て”である。

たとえば、天気予報を検索したとしよう。その天気予報のもとになる、各地の観測データや衛星から送られてきた情報は、全て、いったん気象庁のデータセンターに集約される。で、データを処理されて、気象庁のHPに載ったり、各天気予報系サイトに配信されたりする。ちなみにWebサイトはすべてサーバーの中に作られているデータであり、つまりはそれもどこかのデータセンターの中に実体がある。

そしてデータセンターには、機材倉庫という役割もある。稼働し続けるサーバーやネットワーク機器の修理パーツ、予備機材、新しく増設される機器や古くなって入れ替えられる機器の代用品など、様々な用途の機材が倉庫に積み上がっている。

付け加えておくと、クラウドと言われているものも全て実体はサーバー('+ストレージ)とネットワーク機器の集合体であり、どこかのデータセンターにある。
おそらく同業者は、「xxクラウドのデータセンターはxxにある」みたいな情報を沢山持っていると思う。普段メンテしたり増設したりしてるもんね…。


●騒音や排気の問題はある?

騒音なんて全然なく、むしろ普通の工場よりはかなり静か。古いデータセンターだと排気ファンの音がうるさいところもあったりするが、最新の新しいデータセンターでは外部に音が漏れないよう防音対策をされているのが普通。

ただ排気部分では、中身が常時稼働し続ける機械だらけなので、常時、熱を外部に放出し続けることになる。
ゲーミングPCとか、プレイステーションみたいなゲーム機を想像してもらうとわかりやすいのだが、重たい処理を走らせ続けると、熱がこもってファンがウィンウィン言うのを聞いたことがあると思う。防音対策をしても熱は出るので、その熱を建物の屋根とか壁から放出してコンピューターが熱暴走で壊れないようにしている。

なお、データセンターの中が冷房効きすぎて寒いと言われていたのは一昔前までの話で、最近のデータセンターはエアフロー設計がきちんとされているので、無駄な冷却エネルギーを使わずに、効率的に空気を循環させて熱だけを逃がす構造になっている。また、涼しい北海道などにデータセンターを作り、冬場の冷房を不要にしたり、夏場の冷房代を浮かせたりしているところもある。


●ロケーションについて

基本はコンピューターのための設備であるデータセンターだが、実は東京近郊にあるものが多い。
なぜかというと、「人」「メンテナンス性」「物資」の縛りがあるからである。

・東京に本社のある企業が多く、その企業の根幹となるシステムは本社近くに作ったほうがメンテナンス性がいい
・運用やトラブル対応のためには専門スキルのある人材が必要だが、その人材を全国に分散させる余裕はない
・海外から輸入している機材も多く、空輸で来るため国際空港の近くが望ましい

ただ最近は、地方のデータセンターも増えている。やはり首都圏は、なんといっても土地代が高すぎるのである。
首都圏近郊以外だと、大阪、北九州、あとは各地の、東京から新幹線1本でいける新幹線停車駅の近くなどにもある。めちゃくちゃヘンピな山奥や、バス乗り継ぎしないと行けないようなところにあるデータセンター、周囲が一面のネギ畑しかないデータセンターなども行ったことがあるが、あれは出張者にも不評だし、近くの寮に住み込みのメンテ担当者などがいるから成立しているんだと思う。

ニュースになっていたデータセンター建築の話も、いままでデータセンターの無かった郊外などに進出しようとして起きた話だった。


●データセンターを建てると日照に問題が出るか

普通はならない。データセンターは通常、それほどの高さにはならず、せいぜい3階建てくらいまでである。見たことのある最大の高さはアットトーキョーの9階だが、あそこは日本最大のデータセンターなので別格。そんで海沿いにある。

あまり建物を高く出来ない理由は、中身のコンピューター類と、それらを固定するためのサーバーラックと呼ばれる金属枠がすごく重いからである。
自宅のPCを持ち上げるだけでも重いなって感じると思う。そのPCが巨大化したらどうなるか。金属の塊なので…まあ…分かりますよね。
床面の耐荷重の問題。あとは、エアフローの問題として、排熱を処理するために平たい構造になりがちなのだと思う。

また、データセンターはその性質上、熱を外に放出しなければならないため、密集させて建てることが出来ない。周囲の建物との間に空間を開ける必要があり、他の施設よりはるかに日照問題は起きづらい。データセンター建設に日照問題を持ち出すのは、はっきり行って意味不明な論理である。


●データセンターのメリット

まずは周辺地域の電力が安定すること。
実体が巨大なコンピューターの集合体である以上、電気はめっちゃめちゃ食う。なので周辺地域の電気設備が強化される。

次に、データセンターはおいそれと無くならないため、最低でも数十年はその土地が活用され続けることもメリット。データセンター運営元が倒産することはめったに無く、たとえ倒産しても中身がある以上は別の会社に買収されるだろう。

ちなみにデータセンターの中は細かく部屋に分かれており、部屋ごと、あるいは部屋の中のエリアごとに、いろんな会社に貸し出しされているのが一般的だ。
たとえばA棟の1-1室は金融系企業のクレジットカード決済用サーバー、1-2室は大手通販企業の通販オーダー処理用サーバ、1-3室の左エリアは食品会社のホームページと製造ラインの在庫管理システムで、右エリアは電車の乗換案内。というような状況で、部屋やエリアごとにそれぞれの企業が月々のお金を払って自社の機器を置かせてもらっている。
つまり、データセンターの運営/管理会社と、中身の機械の持ち主は別々であることが多い。
(1つのデータセンターをまるまる自社用に建てたりするのは、GoogleとかAmazonみたいな大手企業と官公庁くらいだと思う)

なので、データセンターは、人の出入りが無いどころか、実際には色んな会社の人間が頻繁に出入りする施設である。
しかも24時間オープンのことが多いので、ずっと人がいる。高セキュリティなDCだと警備員さんがいたり、監視カメラが入口に取り付けられていたりするので防犯にもなりそうだし、むしろ寂れている地域こそ誘致するメリットがあると思う。


●データセンターのデメリット

唯一思いつくデメリットは、「データセンターが建てられた地域の雇用にはほぼ貢献しない」である。
先に書いたように、中身のメンテナンスや運用はITスキルのある専門人材に限られるため、その地域の人が直接雇用されることは無いだろう。入口の警備員さんとか、掃除の人くらいなら…働き口はあるかもしれないが。

ただ、全く地元経済に貢献しないわけではない。データセンターがヘンピな所に建てられている場合、近くの食堂やコンビニはデータセンターにやってきた作業員の補給線になってることも多い。中の人も、ネギ畑の中に一軒だけあるうどん屋さんに毎日通い続けたことがあります…


●データセンターを建てることにデメリットはなさそう…ではなぜ反対するの?

と、ここまで説明してきたが、要するに反対される理由がないし、反対の論点もとんちんかんなのである。なぜ建設に反対するのかはさっぱり分からない。

邪推になるが、データセンターに反対している人たちは、その予定地を別の用途でもっと高く売りたいか、安く買い叩きたいのではないだろうか。データセンターは、一度出来たら最低数十年、ヘタしたら50年くらいはその土地を使い続ける。一度作ったら簡単に移転しない、むしろ中身を考えると移転出来ない設備なのだ。土地売買が絡んでいるなら、難癖つけて阻止しようとする理由も分かるかな。



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以上、適当に基本的なところを説明しておいた。

最初に書いたように、データセンターの中身は、PCやスマホから見えているもの全てである。今の御時世、自宅サーバを置いてる人など滅多なおらず、データセンターに置かれていないホームページやWebデータは、ごく一部の例外を除けばほとんど無い。つまり、インターネットを理由する全ての人が、そうとは知らずデータセンターの恩恵を受けている。

今や生活に欠かせない、水道や電気、道路などと同等の、社会インフラの一部と言うことが出来る重要な施設なのである。