ありそうでなかったアレクサンドロス以前の通史本「古代マケドニア全史」
なんとなーく時間つぶしに駅の本屋眺めてたら、メチエにしてはやたら気合の入った分厚い本があったので、おっ読むかぁ~みたいな感じで手に取った。あとがき見たら、これでも2/3くらいに削ったらしいので、マジで気合いの入った本である。
ありそうで無かった、マケドニアという王国の建国から滅亡(分裂)に至るまでの通史本。

古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国 (講談社選書メチエ) - 澤田典子
著者はたぶんフィリッポス推しで、息子の影に隠れがちなフィリッポスの治世について、これでもかと語っている。ちょっと愛が暴走気味に感じるところはあるけれど…。
ただ、フィリッポスに至るまでの、マケドニア王たちの動向や国としての傾向がわかりやすいのは助かる。
王たちが暗殺されまくってるところとか。

いやマジ、これ一覧にすると壮絶だな…。マトモに(?)天寿を全うしてる人ほぼいないよ…。わりと碌でもないないというか、むしろこれでよく国の体裁保てたな。ヒッタイト末期はこれやってあっという間に流れ星のごとく燃え尽きていったぞ。
マケドニアと周辺国との関係も丁寧めに説明されていて、アレクサンドロスの母オリュンピアスの出身モロッソスはもちろん、ライバル関係だった周辺の小国群についても一通り出てくる。また、アテネやテーベといった有力ポリス、強大なペルシアとの関係について、史実と、プロパガンダとして流布されただろう情報を区別しようと試み、後世にローマの記録に書かれたものに対する史料批判も行っている。
こうした内容の考察部分はおそらく著者のオリジナルで、人によっては異論があるだろうなぁとは思った。が、よく議論を見かけるポイントが丁寧に拾われているので、歴史家によって解釈の差異が出るのがどのあたりかは分かると思う。
面白かったのは、最後にあった「もしもフィリッポスが長生きしていたら」という話。
フィリッポスが暗殺されずに予定どおりペルシア遠征をやってたら、彼はおそらく、ペルシアを滅ぼしたりなどせず、いい感じのところで手打ちにしただろうという。

まずペルシアは当時のギリシャ世界に比べて文化力も財力も圧倒的に上だった。その広大なペルシア帝国を、新興の小国家で、ようやく目障りなアテネを黙らせたばかりのマケドニアがまともに治められるわけがない。現実的な政治家であるフィリッポスなら、そう判断しただろうという。
まあそれはそうだろうな…と思うのだ。
というか、アレクサンドロスは少々やりすぎた。というか、後のこととか考えておらず、後継者もいないまま、まともに国を作れずに終わっている。アレクサンドロスの死後、獲得された領土は部下たちによってバラバラに切り取られ、マケドニア本国もそう長く持たないまま滅びてしまう。英雄、征服者として見れば偉人だが、為政者としては三流という見方もあるのも事実だ。(その話は本の最初のほうに出てくる)
エジプト史からすれば、厄介なペルシアを永遠に黙らせてくれた恩人ではあるのだが、ローマが台頭する時代にギリシャ世界が役立たずになってたのはちょっと痛い。
*****
なお、本の最後のほうに出てくるヴェルギナの王墓の話は、最近ちょっと動きがあった。
フィリッポスの墓が2号墓という定説はそのまま維持されそうなのだが、1号墓は、どうやらアリダイオではなく、1世代くらい前の王になるらしい。1号墓の主の特定については、今後の調査を待ちたい。
アレキサンダー大王の父・フィリッポス2世の墓ではとされたヴェルギナ1号墓の被葬者、大王の父ではないと否定される
https://55096962.seesaa.net/article/515193839.html
現代ギリシャとマケドニアの抱える名称問題については以下に以前取り上げた。
現代ギリシャと北マケドニアを巡る「アレクサンドロス帰属問題」、面倒くさいけど面白い
https://55096962.seesaa.net/article/498645049.html
また、マケドニア王国の範囲が時代ごとに変わっていること、マケドニア人の中には征服された周辺国の民も入っていることに関連して、以下もついでに紹介しておきたい。
「クレオパトラはギリシャ人、エジプト人ではない!」→間違い。基本事項分かってない人が勘違いしがちなところを説明する
https://55096962.seesaa.net/article/515471012.html
ありそうで無かった、マケドニアという王国の建国から滅亡(分裂)に至るまでの通史本。

古代マケドニア全史 フィリッポスとアレクサンドロスの王国 (講談社選書メチエ) - 澤田典子
著者はたぶんフィリッポス推しで、息子の影に隠れがちなフィリッポスの治世について、これでもかと語っている。ちょっと愛が暴走気味に感じるところはあるけれど…。
ただ、フィリッポスに至るまでの、マケドニア王たちの動向や国としての傾向がわかりやすいのは助かる。
王たちが暗殺されまくってるところとか。
いやマジ、これ一覧にすると壮絶だな…。マトモに(?)天寿を全うしてる人ほぼいないよ…。わりと碌でもないないというか、むしろこれでよく国の体裁保てたな。ヒッタイト末期はこれやってあっという間に流れ星のごとく燃え尽きていったぞ。
マケドニアと周辺国との関係も丁寧めに説明されていて、アレクサンドロスの母オリュンピアスの出身モロッソスはもちろん、ライバル関係だった周辺の小国群についても一通り出てくる。また、アテネやテーベといった有力ポリス、強大なペルシアとの関係について、史実と、プロパガンダとして流布されただろう情報を区別しようと試み、後世にローマの記録に書かれたものに対する史料批判も行っている。
こうした内容の考察部分はおそらく著者のオリジナルで、人によっては異論があるだろうなぁとは思った。が、よく議論を見かけるポイントが丁寧に拾われているので、歴史家によって解釈の差異が出るのがどのあたりかは分かると思う。
面白かったのは、最後にあった「もしもフィリッポスが長生きしていたら」という話。
フィリッポスが暗殺されずに予定どおりペルシア遠征をやってたら、彼はおそらく、ペルシアを滅ぼしたりなどせず、いい感じのところで手打ちにしただろうという。
まずペルシアは当時のギリシャ世界に比べて文化力も財力も圧倒的に上だった。その広大なペルシア帝国を、新興の小国家で、ようやく目障りなアテネを黙らせたばかりのマケドニアがまともに治められるわけがない。現実的な政治家であるフィリッポスなら、そう判断しただろうという。
まあそれはそうだろうな…と思うのだ。
というか、アレクサンドロスは少々やりすぎた。というか、後のこととか考えておらず、後継者もいないまま、まともに国を作れずに終わっている。アレクサンドロスの死後、獲得された領土は部下たちによってバラバラに切り取られ、マケドニア本国もそう長く持たないまま滅びてしまう。英雄、征服者として見れば偉人だが、為政者としては三流という見方もあるのも事実だ。(その話は本の最初のほうに出てくる)
エジプト史からすれば、厄介なペルシアを永遠に黙らせてくれた恩人ではあるのだが、ローマが台頭する時代にギリシャ世界が役立たずになってたのはちょっと痛い。
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なお、本の最後のほうに出てくるヴェルギナの王墓の話は、最近ちょっと動きがあった。
フィリッポスの墓が2号墓という定説はそのまま維持されそうなのだが、1号墓は、どうやらアリダイオではなく、1世代くらい前の王になるらしい。1号墓の主の特定については、今後の調査を待ちたい。
アレキサンダー大王の父・フィリッポス2世の墓ではとされたヴェルギナ1号墓の被葬者、大王の父ではないと否定される
https://55096962.seesaa.net/article/515193839.html
現代ギリシャとマケドニアの抱える名称問題については以下に以前取り上げた。
現代ギリシャと北マケドニアを巡る「アレクサンドロス帰属問題」、面倒くさいけど面白い
https://55096962.seesaa.net/article/498645049.html
また、マケドニア王国の範囲が時代ごとに変わっていること、マケドニア人の中には征服された周辺国の民も入っていることに関連して、以下もついでに紹介しておきたい。
「クレオパトラはギリシャ人、エジプト人ではない!」→間違い。基本事項分かってない人が勘違いしがちなところを説明する
https://55096962.seesaa.net/article/515471012.html