らくだの家畜化についての知識まとめ:ヒトコブラクダとフタコブラクダで辿った経緯が違うよ!

らくだの家畜化について、いつ・どこで・どう家畜化された…みたいな話が、イマイチいい感じの資料が無かったので自分で作っておくことにした。

まず前提として、らくだにはフタコブラクダとヒトコブラクダがある。要するに背中にこぶが1つなのか、2つなのか、である。
フタコブラクダはアジアの砂漠にいる。ヒトコブラクダはアラビア半島や一部はアフリカにもいる。なのでモンゴル人が飼ってるのはフタコブ、アラブ人が飼ってるのはヒトコブ。この二種は近縁種であり、交配できるし、交配したものは生殖能力を持っている。

旧約聖書で言及されたり、エジプトにペルシア人が持ち込んだりしているものは基本的にヒトコブラクダである。

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ラクダ類の祖先の故郷は約3500万~4000万年前の北アメリカ。その時代はまだ北アメリカ大陸と南アメリカ大陸が繋がっていないし、ユーラシア大陸とアフリカ大陸も繋がっていない。
その後、大陸が繋がり、南アメリカ大陸に移動したものがLaminiラクダ、今のアルパカやリャマに繋がる祖先。
ベーリンジアを渡ってユーラシア大陸に移動したCameliniラクダがヒトコブラクダとフタコブラクダになる。これはおよそ1630万年前のこととされる。

系統樹にすると、こう。

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Genomic signatures of domestication in Old World camels
https://www.nature.com/articles/s42003-020-1039-5

DNAの変異から逆算して、ヒトコブラクダとフタコブラクダは440万年前~800万年前ごろに分岐し、フタコブラクダは家畜種と野生種が60万年前~180万年前ごろに分岐したと推測される。ここでいう家畜種は、複数の種類に分岐した中でのちに家畜として飼いならされる種が出来た、という意味。現存するフタコブラクダの野生種は、家畜種の直接的な祖先ではなく近縁種という関係のようだ。
なおヒトコブラクダは、のちに家畜になる家畜種のみを残し、残りは絶滅してしまった。

ヒトコブラクダは生息域が主にアラビア半島で狭かったのもあるが、気性が荒く、家畜に向かないと判断されて人間の狩猟対象となっていた可能性があるという。現在残っている家畜種にはミトコンドリア系統が少なく、数千年前までにほぼ絶滅状態まで追い込まれていた可能性もあるらしい。家畜化された以外の種が絶滅してしまったのは、そういうことなのだ。
もしそこで絶滅させるまで穫ってしまっていたら、ラクダのいないアラブ、ラクダが外来種扱いであまり重視されないイスラム教、という歴史ifもあったかもしれない…。


さて、ラクダの家畜化だが、どうもフタコブラクダのほうが早いらしい。
フタコブラクダは、紀元前4千年紀~3千年紀ごろ、バクトリア地方で家畜化されたと考えられている。

ヒトコブラクダは紀元前2千年紀の後半(紀元前1500-1000年の間、紀元前1,200年ごろか?)のアラビア半島とされる。
ヒトコブラクダについての資料はアラビア半島、メソポタミアなど周辺地域の遺跡から出る遺骨と壁画、文書記録などがソースとなるためけっこう細かく分かっている。ラクダに騎乗した最古の証拠は、前9世紀のテル・ハラフ出土の石碑。ほぼ同時期にアッシリアでもラクダ騎兵と戦った文書記録があるため、この頃までには騎乗動物としての地位が確立されていたらしい。

ヒトコブラクダは最初から騎乗動物だった可能性が高いが、フタコブラクダは乳や毛の利用がメインだった可能性が高いという。
これは、南米で家畜化されたアルパカやリャマと同じ利用方法になる。
ラクダ科の仲間は妊娠期間が長く、一度に生む子どもが少ない。また育児期間も長いため、肉をとるために増やすというのはあまりコスパがよろしくない。だが授乳期間が長いので乳を取るには有利だし、毛はモフモフして温かい。

しかしこれは、ヒトコブラクダが絶滅寸前まで狩られてしまった理由にも繋がっている。
ヒトコブラクダの生息域には、既にヒツジとヤギという、扱いやすく、毛も乳もたくさん採れるうえによく増える、圧倒的にコスパのいい家畜が別にいたのだ。それらと被る利用目的だけなら、特に必要とされない生き物だった。そのため、ヒトコブラクダは最初から騎乗目的での家畜化だったと推測されている。
荷物を積めること、ロバや馬に比べて乾燥に強いこと、南アラビアの香料産地から砂漠を越えて商品を輸送する需要が紀元前2千年紀の末に訪れたこと。これらの複合条件が、ヒトコブラクダの家畜化に貢献した可能性がある。


以上、簡単だが家畜化の経緯とかまとめておいた。

ラクダ、乗ったこともあるし、ヨルダンとかで実際に地元民が使ってるの見たこともあるけど、まずデカイのと、人間をナメくさった態度とりがちなのと、拒否犬ならぬ拒否ラクダになるタイミングがあって道路の真ん中とかで動かくなるのがマジ扱いづらいと思うんですよね。絶対ロバのほうがいいって。敢えて難易度高いラクダ使わなきゃならんのって、砂漠を全力疾走したいとか、よっぽど大量の荷物を輸送したいときくらいなのでは…?

今ではアラブ世界でもモンゴルでも、財産としての地位が高くステータス扱いされることもあるラクダだけど、その裏には飼いならすための苦労とか試行錯誤とかが色々あったんだろうなと思うんですよね…。