「余ったケーブルを挿してループ」「掃除のおばちゃんがコンセントを抜いた」、それはもう今は起きないです…(インターネット老人会)

IT業界は変化の激しい業界である。わりと枯れた技術の多い基盤・インフラ部門でも、既に一昔前のものとなった知識はたくさんある。
にも関わらず、昔からネットスラングとして生き残っている「いにしえの時代の思い出」をたまに見かけるーーでもそれ、今もうない現象だよ??


よく使われる事象/トラブル例として、「余ったケーブルを適当にそのへんのハブのポートに挿したらループしてネットワークに一切繋がらなくなった」という現象がある。いらすとやにもある、↓こういう状態。

computer_hub_loop_setsuzoku.png

この現象は、ループしてしまっている箇所が原因でパケットと呼ばれるデータが無限に増殖し、ネットワーク全体がキャパオーバーでダウンしてしまうという現象だ。
一箇所の配線を間違えただけで全社的にネットワークがダメになる、などということも、かつてはあった。
視覚的にわかりやすいせいかネット上では今でもよく見かける。

だが今は、よほど古い機器を使っていない限りこの現象はほぼ起きない。
何故かというとループ検知・防止機能が機器に搭載されるのが普通になっているからである。

適当に検索したところで出てきた、I-Oデータの廉価な8ポートハブ(=L2スイッチ)ですら搭載されている。
ループ検知してこの機器単体で止めてくれるので、昔のような阿鼻叫喚の祭りは起こらない。というかまあ、簡単に起きるような現象なら対策くらい普通されるやろという話でして…。
https://www.iodata.jp/product/lan/hub/etg-esh08lm/

なので今さらループを起こすのは、廉価なスイッチすら買い替えていない機器の耐久年数とか考えていない企業とか、昔の機器をずっと使い続けている一般家庭とかだと思う。
実際、中の人がこのトラブルが実際に起きているのを仕事の現場で最後に見かけたのは10年以上も前のこと。今のIT業界の人たちは、知識としては持っていても実際に見たことはほとんどないだろうし、そんなに頻繁に起きるとも思っていないのではないだろうか。もちろん気をつけないといけない事象ではあるのだが、そこらへんでホイホイ起きる問題ではなくなった。



もう一つ、よく出てくるネットスラング的なトラブルが「掃除のおばちゃんがコンセントを抜いた」である。

かつてサーバー・ネットワーク機器は、各会社のどこかの部屋にまとめて置かれて、その部屋だけ1年中エアコンをかけておく、などの運用がされていた。わざわざデータセンターに機器を置くほど台数がないし、そもそも地方だとデータセンターが少ない/間借りするのが高い、などの事情もあった。

しかし、この事象も最近ではほぼ起きなくなっている。
理由は幾つかある。

①いわゆる「オンプレミス」と呼ばれる、サーバー機器を自社で持つ方法が使われなくなり、クラウド上にサーバを置くことが増えた。自社でハードを持つと資産扱いになってしまうが、クラウド上に間借りしてデータだけ置いとけば廉価だし、ハード交換やメンテなども不要で楽。地方中小ほど自前のハードウェアは持たなくなってきた。ので、誰かが間違えて電源引っこ抜くこともなくなった。

②東京に本社がある会社で自社ビル内にサーバ室や小さなデータセンターを置いていたところは、2011年の東日本大震災後の計画停電の時期に軒並みデータセンターにお引越しした。地震にも強いデータセンターは大人気で、棟の増設&機器移設で中の人のようなインフラ屋は死ぬほど働く羽目になった…。

③工場などに併設された自社データセンターは今もそのままのところがあるが、コンプライアンスやセキュリティの問題から、かつてのように人がほいほい出入りできる場所ではなくなった。コンピューターシステムの重要度は年々飛躍的に上がっており、今ではシステムが1日止まるだけでも数億円規模の損害が出ることすらあるため、掃除に入れるのは知識のある人だけになっている。

④最近の機器は使用電力がデカいため、専用コンセントが必要。専用の固定ラックと電圧の高い電源を引いてきて繋ぐので、掃除機ひっかける場所がないし、一回まわしてカチッと固定させるやつが多く、掃除機引っ掛けた程度では抜けない。ネットワーク機器でも電源に抜け防止の爪ついてるやつとかある。

というわけで、今となっては「掃除のおばちゃん」がサーバーに近づくことは出来ず、誰かが間違って電源を抜くこともなくなっている。そもそもクラウドだと物理が手元にないので電源ないし。どちらかというと、遠隔操作出来てしまうぶん、「クラウドサーバーの名前間違えて担当が違うサーバを間違えて停止させちゃいました~」とかのほうが起きる可能性はあると思う。


また、これ以外に、「rm -rf /*」コマンドはだいぶ前から使えなくなっている。仕様としてルートディレクトリはいじれなくなっているのだ。ネット上のネタとしてはいまだに生き残っているが、このコマンドが使えたのは、そうとう昔のOSまでだ。

プロセスを強制終了させる時に「親を殺せ」も言わなくなってきている。そして、その手の「他人に誤解されそうな業界用語の会話」は、外に漏れることはほぼ無くなっている。
というのも、IT業界のセキュリティ全体が厳しくなっているので、仕事の会話は外ではしないこと、というのが鉄則になっているからだ。不特定多数のいるお外でデカい声で仕事内容の電話とかする人なんてまだいるの?? くらいの話。電車の中でパソコン広げて仕事しちゃう人と同じくらいヤバい。未だにそんな人がいるならマジメにコンプラ違反です…。

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というわけで、これらは今となってはすでに過去となったか、過去となりつつある事象である。
昔からIT業界にいる人の「懐かしネタ」か、インターネット老人会の「定番ネタ」みたいなものになる。実際に起きうるトラブルとして認識している人がいるならば、それは単に知識のアップデートが出来ていないとかなのだと思う。