「ツタンカーメンの呪いはガンに効く」、謎の記事を見つけたので元論文を探しに行ってきた→やっぱツタン様全然関係ねえ…!

ツタンカーメンの呪いがガンに効くという謎記事を見つけて「???」となった。
Nature Chemical Biologyってそんなオカルト寄りの論文載せる雑誌じゃないんですけど…? どうせ元論文そんな話してなくて、誰かが話膨らませただけでしょ。

と、思ったので大元の論文から読みに行ってきた。

ツタンカーメンの呪いが一筋の光に!?がん治療に効果の可能性 米大学が報告
https://news.livedoor.com/article/detail/29070539/

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元論文はこれである。
タイトルからして明らかに上記の記事とはノリが違う。ふつーの医学論文である。

A class of benzofuranoindoline-bearing heptacyclic fungal RiPPs with anticancer activities
https://www.nature.com/articles/s41589-025-01946-9

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要約すると、「真菌由来の Ribosomally synthesized and post-translationally modified peptides (RiPPs) という成分を活性化させると抗癌物質ができることが分かり、ガン治療に使える可能性がある」

真菌とはいわゆるカビのこと。カビから作られる薬は意外と多く、今や無くてはならないものとなっているペニシリンも青カビ由来である。なので研究者たちは、「我々はペニシリンに匹敵するものを見つけた可能性がある」と言っているのだ。

では、ツタンカーメンはどっから出てきたのか。
ここでペンシルバニア大の出してるプレスリリースを見てみよう。

Penn Engineers Turn Toxic Fungus into Anti-Cancer Compound
https://blog.seas.upenn.edu/penn-engineers-turn-toxic-fungus-into-anti-cancer-drug/

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…はいもう分かりましたね。興味を惹かせるためなのか、余計な与太話付け足しちゃったせいで、最終的にTOPに載せたみたいな記事に変わっちゃったわけです。論文の一番言いたかったところがおざなりにされて、与太話に適当に尾鰭つけた部分がメインにすり替わってしまったんですね…。


ちなみに、今回の話題になってるアスペルギルス・フラバスという菌は、別にツタンカーメンの呪いの原因ではないです。「ない」と言い切れるのは、その証拠も、そう信じられるだけの情報も無いから。

そりゃあ、ツタンカーメン墓が開かれた当時の内部に生えていた可能性はあるでしょう。別に珍しくもなんともないカビなので、そのへんに生えてるだろうし。アレルギーや肺炎を引き起こすこともあるので、最初の発掘者たちの中でも年寄りで弱っていたカーナーボン卿が感染してた可能性はゼロではない。ただ、死亡時期が墓に入った直後ではないので、死の直接的な原因になったとは考えにくい。墓が開かれたのが11月、カーナーボン卿が死亡したのは翌年4月。その間に発掘作業員、物見遊山の人、新聞記者、エジプト政府の人など多くの人が墓に立ち入っているが、誰ひとり肺感染症では死んでいないのだから。

一緒に墓に入ってる他の人たちは全くなんともなく、ツタンカーメン墓に入った直後に同様の症状を発症した人も他におらず、そもそもカーナーボン卿の菌感染の有無さえ調査されていないため、これはただの都市伝説と言っていい。ツタンカーメンの呪い伝説を科学的に説明してもっともらしさを付け加えようとした試みの一種であり、そもそも呪いと言えるほどの現象は存在しなかったのだから与太話に過ぎないです。

最初の日本語記事にある「ツタンカーメン王の眠る墓を発掘する探検家を致死力のある肺感染症に至らしめたとされている」は、「呪い」に科学的に見えるもっともらしい背景を付与しようとして近代に出てきた話ですからね。ニセ科学の類なんですよ。
(そもそもカーナーボン卿は「探検家」ではない。イギリス貴族であり、発掘調査のパトロンである。ウロ覚えにもほどがある)



本題に戻ると、今回の論文は、真菌から、がん治療に役に立つ可能性のあるアスペルギマイシンという物質を分離出来たよ、というところまでになっている。ここから、これを量産し、薬にし、治験で安全性を確かめ、実際の治療現場に投入するという手順が待っている。実際のがん治療に使われるようになるまでには、かなりの時間を要するだろうし、何か致命的な副作用が発見されるなどして実用化されないまま終わることもあり得る。

発見するだけでは金にならず、実用化されて特許とれるくらいまで行かないと儲からない。今は研究資金が欲しい時期なのだろうし、話題になるような書き方をするのは分からんでもないのだが、科学者ともあろう者がオカルトに話をつなげるのは感心しない。こういうやり方は好きではないので、せめて呪い伝説を既知の事象みたいには書かないでもらいたかったですね…。