アメリカ大陸の人骨から4,000年前のハンセン病罹患者の証拠が見つかる。新大陸で独自に進化した病原体か?

ヨーロッパからの開拓民が到達する以前のアメリカ大陸で、既にハンセン病患者が存在した、という調査が報告されていた。
かつてはハンセン病は開拓民ととに新大陸に入り込んだ病気の一つだと考えられていたのだが、実はそれ以前からあった、新大陸独自の病気だったことになる。

というわけで、内容が気になったのでちょっと論文を読み込んでみた。

4,000-year-old Mycobacterium lepromatosis genomes from Chile reveal long establishment of Hansen’s disease in the Americas
https://www.nature.com/articles/s41559-025-02771-y

まず前提として、ハンセン病を引き起こす病原体は2種類ある。ハンセンさんが発見した、昔から知られている病原体となる菌は「Mycobacterium leprae」。対して、2008年にメキシコの患者から発見された新たな病原体が「Mycobacterium lepromatosis」。
レプラとレプラトーシスで微妙に名前が違うのだが、今回調査されているのは新しく見つかった病原体のほうだ。
この新しいほうが、どこから来たのか、いつからあるのか分からんので古代人の骨まで遡って調べてたら、どうも昔から新大陸にあった土着の病気らしいと分かってきた…というのが、この論文の内容。

ちなみに元々知られていた leprae のほうは、当然ながらヨーロッパから大量の移住者がやってきたあとの時代にのみ見つかっており、ヨーロッパからの伝播なのは間違いない。 lepromatosis は発見自体が2008年なので、それ以降に調査対象として俎上に上がったものとなる。

で、こんかい菌が検出されたのは、チリ北部のエル・セリート遺跡とラ・エラドゥーラの遺跡で発見された、約4,000年前の成人男性2体。
表の中でECR001とECR003と呼ばれているのがその結果で、平均ゲノムカバレッジはx45とx74で十分に信頼度の保てる高カバレッジとなっている。
(少し前に書いた、古代エジプト人のゲノム解析の話を思い出してもらいたい)
菌はゲノムの内容がわりとシンプルなので、古いゲノム情報でもそこそこの読み取り精度が出るようなのだが、それでも、今回カバー出来たゲノムは83%と88%らしい。

で、ハンセン病の菌はリスが保有することが知られており、リスからヒトに感染して変異したものではないかとされているそうなのだが、そのリスの保有菌と、旧大陸のハンセン病の菌を入れて、検出された新大陸の菌のゲノム情報の差分を比較してみると、意外にも、両者の間あたりに位置することが見えたらしい。

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また、差異の大きさから、旧大陸のハンセン病菌と新大陸のハンセン病菌が共通祖先から分岐したと考えられる年代の中央値は、約26,800年前とのことなので、これはおそらく感染者(人間か動物かは今のところ不明)がベーリング海峡を渡って新大陸へ移住していった年代だろう。

なおアメリカ大陸ではアルマジロが新大陸のハンセン病菌(M. leprae)を保有する生物として知られているらしいので、新大陸の菌はアルマジロからヒトに感染して広まったものかもしれないという。

今回の報告だけでは、新大陸産のハンセン病菌がいつから、どこからやって来たのかまではっきりとは見えてこないが、結果としてとても興味深い。新大陸で発生した可能性のある病気といえば梅毒が有名だが、これからは、もう一つ加わることになるのかもしれない。


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[>オマケ
似た感じの研究とか。

結核はどのようにして新大陸のヒトに広まったか。単純な海洋動物からの感染だけではなさそう…?
https://55096962.seesaa.net/article/202203article_17.html

小さな虫の大冒険:ヒトにのみ寄生するシラミのDNAから、ヒトの移動の歴史が分かるかも。
https://55096962.seesaa.net/article/501461141.html

あと、新大陸での病気の流行に関する闇については、以前取り上げたこちらを…。

カナダ先住民と疫病死亡率。北米もかなりの影響を受けていた
https://55096962.seesaa.net/article/492751023.html