エジプト、たまに「博物館から遺物がなくなる」イベントがある。~思い出せあの事件~

エジプトでは、博物館に収蔵された遺物が行方不明になるというイベントが定期的に発生する。

直近では、2011年に発生した「エジプト騒乱」、実質の内乱である。
「アラブの春」と呼ばれる民主化運動で独裁政権を倒したものの、強力な支配者を失った隙間でイスラム過激派の台頭を許して大混乱。その混乱の中で政府組織の建物が焼き討ちされたり博物館が略奪されたり、遺跡の監視も行き届かなくなって盗掘されまくったりしたのだ。

当時書いたものは以下。

エジプト騒乱: カイロ博物館のミイラ破壊まとめ(微グロ映像ちゅうい)
https://55096962.seesaa.net/article/201102article_7.html

カイロ博物館から盗まれたものリスト & 観光情報ほか
https://55096962.seesaa.net/article/201102article_20.html

エジプト革命後、エジプトの遺跡が盗掘されまくっててヤバい件/立ち上がるエジプト人考古学者たち
https://55096962.seesaa.net/article/201306article_23.html

エジプト騒乱(実質の内乱)で破壊されたマラウィ博物館、三年ぶりに再開。
https://55096962.seesaa.net/article/201609article_27.html

戻ってきた…遺物たちが…戻ってきたぞー!(乙事主様調に) エジプト・マラウィ国立博物館
https://55096962.seesaa.net/article/201310article_2.html

博物館からの盗難リストがありますが、えーこれ実は

・当時は収蔵遺物のデータベースは作成中のままで、盗まれたものの全量が確定していない
・盗難が分かってるものもすべて戻ってきたわけではない

という状況。
カイロ博物館はまだマシで、ミニヤ県で荒らされた博物館のほうは何盗られたのかよく分かってないんですよね…。

なお余談として、おそらく未発見の遺跡から持ち出されたと思われるもので、eBayに流れてたやつとか、アメリカに売られてたものとかがあとから判明して返還されたりもしている。ドシロウトが手当たり次第に掘って大物を当てるりは難しいので、これから発掘調査に入る予定だったところや、調査隊が掘っている途中だった遺跡から持ち出されたものもあるかもしれない。

最近流行り(・・・)の遺物返還。アメリカからエジプトへ「緑の棺」が返還される
https://55096962.seesaa.net/article/496127372.html

密輸ネットワーク特定でアメリカからエジプトに遺物返還。相次ぐ有名博物館の不祥事に危機感
https://55096962.seesaa.net/article/491979993.html


この事件が起きてから、既に15年近くが経過しようとしている。知らない人も、忘れてしまった人もいるだろうが、忘れてはいけない。こんなことで失われてしまった遺物、永遠に消えてしまった情報もあるのだから…。


なお、「定期的なイベント」と最初に書いたが、その前の「博物館から遺物が消えた」大きな事件は、第二次世界大戦中のイタリア軍の侵攻時である。

当時エジプトはいちおう中立ではあったのだが、スエズ運河の防衛のためにイギリス軍が駐留しており、イタリア軍は隣のリビアを占拠していて、そこから攻撃を仕掛けてきていた。エジプト北部も空爆の危険があり、カイロ博物館から貴重な品を一時的に避難させるという作業が行われていた。

その過程で行方不明になったやつがある。なんなら台帳ごと紛失してて、これも何が無くなったのか全量が分からない。
有名どころではツタンカーメンの娘たちのミイラで、ダンボールに入って物置から見つかった。
また、カイロ博物館の庭に埋めて隠した遺物の一部を掘り出し忘れてて近年になって埋まってるのに気がついた、などというケースもあるので、どさくさに紛れてどっかいっちゃったやつは結構ありそうなのだ。

世の中に出回っている、来歴や発掘地不明のエジプト遺物のいくらかは、そうしたイベントの紛失物の可能性がある。
カタログなどに載っている有名なものはオークションやネット通販には出せないから闇取引なのだろうが、たとえば量産型のスカラベやシャブティ像などは、よほどわかりやすくファラオの名前が書いてあるとかでもない限り判別は難しく、気づく人はほとんどいないだろう。



エジプト愛好家の中には、本物の遺物を手にすることを望んで買い求める人もいるが、出どころ不明なもの、偽られている可能性のあるものを見極めるのは非常に難しい。(何しろメトロポリタンやルーブルですら騙されているくらいなので)

来歴や出どころ不詳の遺物を見る時は、過去に起きた略奪や盗掘のことを思い出しながら、目の前にあるものが憎むべき破壊行為の産物でないかどうかを疑いながら見たほうがいいと思っている。