クマ被害、40年前から変わっていない…? 「山でクマに会う方法」

最近はクマ被害がニュースなどでよく流れるようになっている。
それらの舞台はほぼ町や村などなのだが、中の人は山登りするので、山道でのクマ目撃情報をいつも確認している。奥多摩はクマめっちゃ出る地域である。

クマ目撃情報一覧など
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/bear/witness

くまっぷ(PC版)
https://app.powerbi.com/view?r=eyJrIjoiMTI3ZWMwMzktODJkZS00NzMxLWI0MTctOTVlODBhMjEzMGY0IiwidCI6ImQwMzAyZmNjLTNlODEtNDljMy04MjM1LWQzMTFhMzY4NGNmYyJ9

だが、クマの生息域とか行動とかについて本で読んだことはなかったので、適当にそのへんの図書館にあった本を一冊借りてみた。
適当に借りすぎて中身見てなかったのだが、読みはじめて気がついた。これ、3-40年前の情報だ…。

山でクマに会う方法 (ヤマケイ文庫) - 米田 一彦
山でクマに会う方法 (ヤマケイ文庫) - 米田 一彦

だが面白いことに、1980年代とかの記述でも、今とほぼ同じなのである。
「最近クマ目撃情報が増えてきてマスコミなどがヒステリックに騒ぐことがある」「駆除数が増えてきている」「果樹園や養蜂場などの被害が拡大している」etc.
山菜採りの高齢者がクマと出くわして襲われる、などの話も出てきて、なんかこれ2025年の記述でも違和感ないな…という感じだった。昔から基本的な状況は変わっていないのだろう。

ただ、この本に出てきていない内容ももちろんある。それは、北海道南部で近年見られる、一部のクマが「積極的に人間を襲うようになっている」という事実である。
人間社会が変化するように、クマ社会だって変化はする。

動物の行動は常に一体ではない。分かりやすいところでいえば、鳥の話で、都市部でスズメに変わってハクセキレイが定住するようになったことや、カワセミが都内の川で営巣するようになったことなど。いずれも、ここ数十年の変化である。
同じように、クマの行動も変化している。わざわざ人里に降りてきて、人間に対してアグレッシブに行動する個体が増えている。

これでは、数十年前の、この本にあるような対処ではダメである。
「クマは襲ってこないから観察しにいこう」みたいなスタンスだと死人がでてしまう。
殺処分数が増えていることを嘆いていてはいけない。むしろアグレッシブな個体は淘汰しないと、この先の人間の生活が保たれないのである。

この本が最初に出たのはおそらくバブル末期くらいで、著者の年齢的にもそのへんの人なのかなと思う。「自然を大切に」とか「高度経済成長で失われつつある動植物は保護すべき」といった概念が、文章の端々からにじみ出ている。
農家が被害を受けていることを知っていながらクマのほうに感情移入する場面が多く、果樹園の主が必死で商品を守ろうとしているのを気にかけずひたすらクマの生態ばかりを追い求めている。クマがミズナラ枝を折るのは自然破壊で、ミズナラが弱る原因にもなるのだが、そういうことは全然意識していない。なかなか徹底した「クマ援護」の立場である。

あと、四国のクマについても、「個体数が減っておりいずれ絶滅するだろう」と悲観的な見方をしているが、それはさすがに自然界をナメすぎ。あいつら増えないだけで今も絶滅していない。
そもそも四国の山自体、クマのキャパが少ないんだと思われる。山歩きしてても食える実とかのなる植物が少ないとこだし…。
なので、あれはあれで丁度いいんだと思うよ。


この本の、どちらかというとクマ側に寄り添った「守るべき自然」という視点、人間社会の持続に関する思いやりのなさは、クマの殺処分にいちいち抗議するような人たちにも重なるのかなと思った。今の時代とは若干、感性がズレている気がして、その違和感がむしろ面白かった。
「クマが人間を積極的に襲うことはない、クマが襲ってくるのは人間が強く出たせいなのだ」という書き方などは、その最たるものである。

多くのクマが、人間など眼中にないのは事実だろう。距離を置こうとするのも確かである。
山で出くわしても、距離があれば、あるいは子連れの母クマでもない限りは、わざわざ襲ってきたりはしない。
しかし、それはあくまで「合理的な」考え方である。クマの行動すべてを合理性で説明してはいけない。

クマにだって機嫌くらいあるだろう。というか、すべての生き物には機嫌に該当するものがあり、それがランダムな行動を発生させる。
出くわした時にたまたま機嫌が悪ければ襲われることもあり得るはずだ。
また、個性だってある。弱そうな生き物に積極的に突っかかっていくことが好きな個体もいるかもしれない。
いくらクマ観察の経験豊富だからといって、これはちょっと思い上がりがすぎるなあ、と感じる記述もあり、それも逆に面白く感じた。なぜ人は、たやすく自分の命を奪える、言葉も通じない生き物に対し、こうも信じ込むことが出来るのか。
自分なら、「クマが人間を襲ってくることはない」などと信じることは出来ない。


登山者にとってクマは、滅多に会うことはないが出来れば会いたくない存在である。
登山道のドングリがいっぱいなっている木の生えているあたりとかは、秋になると熊鈴を鳴らしながら大急ぎで通り過ぎる場所でもある。好きでもないが嫌いでもない、でも少ないほうがいいし人間のことは嫌っていてほしい。近づいて来ないでほしい。

そうした視点からは、この本は全くと言っていいほど役に立たない。生態についても体系だった観察がされているわけではなく、研究書レベルには達していないので、ちょっとした雑学が仕入れられるくらいのレベル。地域によるクマの行動差異も、ここ数十年の行動変化のトレンドが入っているわけでもない。

ただ、40年くらい前でもクマと人間をめぐるトラブルは変わっていないこと、バブル末期からそれ以降の自然に対する眼差しなどは見て取れる。軽いお読み物としてなら面白いと思う。