古代エジプト・新王国時代の土地台帳「ウィルボウ・パピルス」

エジプトのパピルスで農地の利用者とか所有者のリストみたいになってるやつあったはずなんだけど思い出せない…あれ何パピルスだっけ…って思い出せなくて早幾年、再会できたので今度こそ忘れないようにメモっておきたいと思う。

ウィルボウ・パピルス(Wilbour Papyrus)というもので、チャールズ・エドウィン・ウィルバーというアメリカ人が1893年に個人的に入手、その後いろいろあって遺族の寄贈でブルックリン美術館に流れ着き、1941年にはじめて翻訳された。10mくらいのかなり長い巻物で、2つのパーツに別れている。

Wilbur_papyrus.jpg

解説や研究は論文検索サイトで探すと出てくる。
名前さえ分かっていれば探せる。名前ド忘れてしてると探せないけど…。

The Wilbour Papyrus revisited: the land and its localisation. An analysis of the places of measurement
https://www.jstor.org/stable/41812306?read-now=1&seq=15#page_scan_tab_contents

このパピルスは第20王朝ラメセス5世の治世4年に作成されたもの。つまり紀元前1140年くらいのものになる。
エジプト中部ファイユーム周辺の土地を測量し、所有者を記録したリストになっていて、全国の情報は入っていない。おそらく他の地域の土地台帳も当時はあったのだろうが現在では失われてしまっている。

書記がせっせと記録した内容からは、

・土地の区画分け
・それぞれの土地の所有者/職業
・それぞれの土地の収穫量と税金徴収について
・土地区画のランドマーク(目印)について

といった情報を読み取ることができる。
※ナイル川が毎年氾濫する都合上、古代エジプトの農地は頻繁に測量し直されていた。土地測量専門の役人がいたことからもそれが伺えるsffg30.png

sfgg0.png

ランドマークになっている地名には、何を意味しているのか分からないものもある。
決定詞で属性は分かるのだが、たとえば水に関わる単語があったとして、「沼地」「池」「池塘」のどれが妥当な解釈なのか突き止めるはかなり難しい。

面白いことに、灌漑に使われる水路という単語が出てこないらしい。これについてはいくつかの可能性が考えられるという。
・水路は区画の区切りになっておらずランドマークとして使えなかった
・水路という単語が新王国時代には別の単語に変化しており発見出来ていない
・この地域では水路を使わず、現代のベイスン灌漑のように堤防を使うなどして灌漑をしていた(「堤防」という単語は出てくる)

いずれにせよ、土地の目印となりやすいのは動きづらいもの、ナイルの増水で変わりづらいものだったようで、高台にある街や墓地、丘、特定の耕作地(過樹林とか?)や林などがランドマークとして記録されているそうだ。

土地の所有者は5,000人ほどが記録されている。登場するのは60%が農民、40%が農民以外の職業。聖職者(10.6%)、書記(4.3%)あたりはエリート層の所有者で、兵士(8.4%)というのは外国人傭兵を定住させたもので、徴兵されていない時期には農業やってたのでは、と考えられている。リビア人やアジア系移民の名前もあり、彼らは定住した傭兵の可能性がある。また女性の土地所有者も1割程度いるそうで、これは従来から言われているとおり、古代エジプトでは女性も相続人や家長になれたことと関係しているだろう。
ただし個人で土地を所有するケースはあまりなく、ほとんどの人が神殿か国家の土地を耕す小作農だったようだ。

過去の記録との照合もお壊れていたようで、前回と耕作人が変わっていたという記録もある。相続人が死亡し息子や娘に所有者が書き換えられているケースもある。

面積的には、神殿の所有する土地がかなり広い。新王国時代には、耕作地の1/3が神殿所有地だったともされる。つまり神官の持ち分が多く、農民や兵士の所有する土地は面積がそれほど広くなく、いち家族で1ヘクタールから5ヘクタールくらいという。

パピルスBは王家の領地に関する内容で、土地の収穫量や税金として徴収した穀物の集積場所について記されている。
税金は収穫量の15%くらいと想定されているそうなので、なんか現代人とたいしてかわらん比率だなぁ…という世知辛いことを考えてしまう。基本は穀物で、壺や織物などと組み合わせて納税することも出来たようだ。

ちなみに、この時代のエジプトの人口はだいたい280万、全土での畑の総面積は15万ヘクタールと推定されているそうだ。
全国の土地測量を手分けしてやってた書記さんたちお疲れ様という感じ。徒歩で測量して土地所有者の確認までしてまわるの、すごく大変だったと思うんだ…。


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以前書いた古代エジプトもの作品には、このへんの知識も使っている。
主人公が耕作地の管理する役人なので…

そのわりに資料見失ってたわけなんですけどね!w