カルタゴにとっての「裏切り者」、ヌミディア王国と北アフリカにおけるローマの統治
ヌミディア王国とは、カルタゴのすぐ隣、現在のアルジェリアのあたりに存在した国である。当初はカルタゴと同盟しており、ハンニバルの用兵の中にもヌミディア騎兵というのが出てくるが、ポエニ戦争途中で裏切ってローマ側につき、結果的にカルタゴ滅亡の一要因となる。
が、その後、ローマによって滅ぼされてしまい、ヌミディア人自体も独立を失うことになる。(いつものローマしぐさ)
中の人の知識はそこまでで、同じ地域に「ヌミディア」「マウレタニア」という国があるけどどう違うの? とかイマイチ分かってなかったので、専門書が出ていることを知った時はちょっとびっくりした。…あるんだ…こんなニッチジャンルの本あるんだ…。さすがだな日本語…。

ヌミディア王国: ローマ帝国の生成と北アフリカ - 栗田 伸子
というわけで早速読んでみた。
本は三部構成。年代順に並んでいるわけではなく、タイトルにもなっている「ローマ帝国」との関わりがメインテーマなので、メインテーマ部分が第一部になっている。
年代順で、まずヌミディアとは何かとかからスタートするなら、序論→第二部→第一部→第三部 の順番で読むといいかと。

周知の通り、カルタゴは東地中海から移住してきたフェニキア人によって築かれた国である。移住者なので当然、人数は少ない。で、ヌミディアとかマウレタニアとか言われてる国の人たちは、現地にもともと住んでた人たちだ。移住者が人数の多い現地住民と仲良くしなければやってけないのは世の常、この図式は銃のような圧倒的な武力が登場するまでは変わらない。
カルタゴはヌミディアの王家と婚姻関係を結ぶなどして協力関係になり、対ローマ戦線を張っていくことになる。
ただヌミディアにしろマウレタニアにしろ、リビア人という呼び方にしろ、ほとんどはローマの記録に因っている。
カルタゴ史を読んだことがある人なら御存知の通り、カルタゴ人自身が書き記した歴史などは残っていない。おそらくローマによって破棄されたなどで残っていないのだろう。
この当時のヌミディアについても記録はローマ側のものに限られるため、どういう政治体系だったのかとか、どうやって国が成立していったのかなどはいまひとつ分からない。分かっているのはポエニ戦争に参加していたことと、ローマ側につくまでの経緯(の一部)だけだ。
身も蓋もない言い方をすれば、ヌミディアがローマ側についたのは、単に勝てそうな神輿を担いだだけ、自分たちの得になりそうな道を選んだだけ、とも解釈できる。
カルタゴもローマも、リビア人のことは文明的に一段劣るとみなしていた。カルタゴはヌミディアを協力者と見ていたが、同時に支配する側でもあった。ローマはそこに付け込んで、いい感じに懐柔した。
ただヌミディアは立ち回りがあんま上手くなかったのと、カルタゴという強敵が滅びたあとはローマにとっても邪魔になったので、自分たちのほうもあっさり滅ぼされてしまうことになった。
この「強敵に対する立ち回りがヘタ」というのは、もしかしたら、その後の現代国家アルジェリアに至るまで引き継がれる伝統になっているかもしれない。対オスマンでも対フランスでもトチっているので…。なんかこう…。もうちょっと上手いこと延命は出来なかったのか(笑)
ともあれ、ヌミディアもマウレタニアもカルタゴ滅亡からそう長い時間は存在せず、ローマによって滅ぼされる。
北アフリカのローマ属領として存続し、ローマ崩壊後は北ヨーロッパから襲来するヴァンダル人の支配下に入り、次にアラブ人に支配され、オスマン属領になったあとフランス植民地に変わる。
ローマにとって、カルタゴの後背地である北アフリカは常に「地中海の北側=ヨーロッパ側よりは遅れた土地」扱いだったように思われ、蛮族を文明化するまでは親ローマの王家を残しておいてやってもいいけど邪魔になったら潰すよ、くらいの雑な扱いだったんだろうなという気がする。エジプトと同じく、帝国に穀物を供給する穀倉庫扱いではあったものの、エジプトに比べるとあまり支配にこだわった気配もない。
本のテーマが「ローマによる北アフリカの支配」なのでローマ側から見た視点が多いのだが、現地民から見たローマってどういう存在だったのだろうなあ、というのは、ふと思った。海の向こうからやってくる気取った移民たちの国か、文明高い憧れの国が、もしくは偉そうなだけの鬱陶しいよそ者の国でしかなかったのか。
現地民による自分たちの記録が書かれるようになるのは、それからずっとあとの時代なのだ。
******
カルタゴについては、概略のわかる本は何冊か出ている。
おさらいしたい人にはこのへんがオススメ。ヌミディアはあんまり触れられてないけど。

興亡の世界史 通商国家カルタゴ (講談社学術文庫) - 栗田伸子, 佐藤育子

ポエニ戦争 (文庫クセジュ 812) - ベルナール コンベ=ファルヌー, Combet‐Farnoux,Bernard, 勝二, 石川
また地元在住のリビア人についてはベルベル人という言い方もあるので、ベルベル人関連の資料にも、その中の一部族としてのヌミディアは登場する。

ベルベル人:歴史・思想・文明 (文庫クセジュ) - ジャン・セルヴィエ, 私市 正年, 白谷 望, 野口 舞子
が、その後、ローマによって滅ぼされてしまい、ヌミディア人自体も独立を失うことになる。(いつものローマしぐさ)
中の人の知識はそこまでで、同じ地域に「ヌミディア」「マウレタニア」という国があるけどどう違うの? とかイマイチ分かってなかったので、専門書が出ていることを知った時はちょっとびっくりした。…あるんだ…こんなニッチジャンルの本あるんだ…。さすがだな日本語…。

ヌミディア王国: ローマ帝国の生成と北アフリカ - 栗田 伸子
というわけで早速読んでみた。
本は三部構成。年代順に並んでいるわけではなく、タイトルにもなっている「ローマ帝国」との関わりがメインテーマなので、メインテーマ部分が第一部になっている。
年代順で、まずヌミディアとは何かとかからスタートするなら、序論→第二部→第一部→第三部 の順番で読むといいかと。
周知の通り、カルタゴは東地中海から移住してきたフェニキア人によって築かれた国である。移住者なので当然、人数は少ない。で、ヌミディアとかマウレタニアとか言われてる国の人たちは、現地にもともと住んでた人たちだ。移住者が人数の多い現地住民と仲良くしなければやってけないのは世の常、この図式は銃のような圧倒的な武力が登場するまでは変わらない。
カルタゴはヌミディアの王家と婚姻関係を結ぶなどして協力関係になり、対ローマ戦線を張っていくことになる。
ただヌミディアにしろマウレタニアにしろ、リビア人という呼び方にしろ、ほとんどはローマの記録に因っている。
カルタゴ史を読んだことがある人なら御存知の通り、カルタゴ人自身が書き記した歴史などは残っていない。おそらくローマによって破棄されたなどで残っていないのだろう。
この当時のヌミディアについても記録はローマ側のものに限られるため、どういう政治体系だったのかとか、どうやって国が成立していったのかなどはいまひとつ分からない。分かっているのはポエニ戦争に参加していたことと、ローマ側につくまでの経緯(の一部)だけだ。
身も蓋もない言い方をすれば、ヌミディアがローマ側についたのは、単に勝てそうな神輿を担いだだけ、自分たちの得になりそうな道を選んだだけ、とも解釈できる。
カルタゴもローマも、リビア人のことは文明的に一段劣るとみなしていた。カルタゴはヌミディアを協力者と見ていたが、同時に支配する側でもあった。ローマはそこに付け込んで、いい感じに懐柔した。
ただヌミディアは立ち回りがあんま上手くなかったのと、カルタゴという強敵が滅びたあとはローマにとっても邪魔になったので、自分たちのほうもあっさり滅ぼされてしまうことになった。
この「強敵に対する立ち回りがヘタ」というのは、もしかしたら、その後の現代国家アルジェリアに至るまで引き継がれる伝統になっているかもしれない。対オスマンでも対フランスでもトチっているので…。なんかこう…。もうちょっと上手いこと延命は出来なかったのか(笑)
ともあれ、ヌミディアもマウレタニアもカルタゴ滅亡からそう長い時間は存在せず、ローマによって滅ぼされる。
北アフリカのローマ属領として存続し、ローマ崩壊後は北ヨーロッパから襲来するヴァンダル人の支配下に入り、次にアラブ人に支配され、オスマン属領になったあとフランス植民地に変わる。
ローマにとって、カルタゴの後背地である北アフリカは常に「地中海の北側=ヨーロッパ側よりは遅れた土地」扱いだったように思われ、蛮族を文明化するまでは親ローマの王家を残しておいてやってもいいけど邪魔になったら潰すよ、くらいの雑な扱いだったんだろうなという気がする。エジプトと同じく、帝国に穀物を供給する穀倉庫扱いではあったものの、エジプトに比べるとあまり支配にこだわった気配もない。
本のテーマが「ローマによる北アフリカの支配」なのでローマ側から見た視点が多いのだが、現地民から見たローマってどういう存在だったのだろうなあ、というのは、ふと思った。海の向こうからやってくる気取った移民たちの国か、文明高い憧れの国が、もしくは偉そうなだけの鬱陶しいよそ者の国でしかなかったのか。
現地民による自分たちの記録が書かれるようになるのは、それからずっとあとの時代なのだ。
******
カルタゴについては、概略のわかる本は何冊か出ている。
おさらいしたい人にはこのへんがオススメ。ヌミディアはあんまり触れられてないけど。

興亡の世界史 通商国家カルタゴ (講談社学術文庫) - 栗田伸子, 佐藤育子

ポエニ戦争 (文庫クセジュ 812) - ベルナール コンベ=ファルヌー, Combet‐Farnoux,Bernard, 勝二, 石川
また地元在住のリビア人についてはベルベル人という言い方もあるので、ベルベル人関連の資料にも、その中の一部族としてのヌミディアは登場する。

ベルベル人:歴史・思想・文明 (文庫クセジュ) - ジャン・セルヴィエ, 私市 正年, 白谷 望, 野口 舞子