世界史の闇を思う存分味わえる「アルジェリアにおける植民地支配の構造と展開」
ヌミディア王国について調べてたついでに、同じ地域に関する本だしついでに読んどくかぁーくらいのノリで読み始めた本なのだが、…あれだ、めっちゃ世界史の闇。
北アフリカ、マグリブと呼ばれる地域をフランスがいかに植民地化し、ズタボロにしていったか、という話を書いた本。
アルジェリアはフランスからの独立にあたり、全人口300万人のうち50万人とも言われる死者を出したという。が、それもこれ読むと「そら大量に死者出しても独立しようとするわこれは」と思わせられる内容だった。

アルジェリアにおける植民地支配の構造と展開――フランスの土地政策と農村社会の変容 - 小山田 紀子
端的に言うと、搾取しすぎなんである…。
アルジェリアはフランス植民地になる以前はオスマントルコが間接統治していたわけだが、オスマンの統治は人頭税とかは取り立てていても、国民を奴隷扱いするとか飢えさせるとかはしていない。が、フランス統治に入ってからはヨーロッパ移民優位の植民地政策で、地元民から土地を取り上げ、法律的にも不利な状況に置き、それを「近代化」と呼んでいる。
地元文化やコミュニティは破壊され、本国フランスにとって都合のいい農作物を作らせるためのモノカルチャー経済にして、土地を取り上げた農民をそこで働かせるなど無茶苦茶やってるので、胸糞が悪いどころではない。
まあ統治ヘッタクソ。
ライバルのイギリスが先に外洋に出てカリブ海とかの植民地でブイブイ言わせてるのに追いつきかったんだろうけど、いくら何でもやり方が雑すぎるというか。
ニューカレドニアの事例といい、ハイチの事例といい、フランス植民地はとにかく予後が悪い地域が多いが、統治のやり方がお貴族様的すぎる。現地住民や文化を徹底的に破壊した挙げ句、解消できない禍根を残して放り出すというのがフランスの植民地支配なので、そこはもうちょっとイギリス君のジョンブルな建前を見習ったほうがいいのでは…。(まあイギリス植民地も大概だけど)
オスマン時代の支配に問題が無かったわけでもないけど、その後がひどすぎたんだなあ…。
アルジェリアは独立後もゴタゴタがあってなかなか治安が安定しなかったり、10年くらい前まで内戦やってたりとずっと不安定なままだったが、国家の基盤となる部分が破壊されてからの再生だと建て直しも厳しかったんだろうなと思った。
それと、アルジェリアワインというのがあるのは知ってたけど、まさかのフランス植民地時代の産物。最近あんまり栽培されてないと聞いてたけど、経緯を知るとそりゃそうなるなという感じ。
そしてこの本、日本の研究者が書いているのだが、なんと資料はぜんぶフランスにあって、フランスまで行かないと研究出来なかったらしい。
アルジェリアの歴史なのに何で? という話だが、アルジェリアが独立してフランス人支配者が引き上げる時に、植民地時代の資料や記録を全部本国に持ち帰ってしまったからなんだとか。
つまりアルジェリア人、自国にある資料では植民地時代の自国の歴史は研究出来ない。つらい。
それもあってか、フランスとアルジェリアの過去は未だ精算されたものとは見なされておらず、独立戦争が戦争と認識されたのもかなり最近のことらしい。
「日朝関係や日中関係に比べると歴史認識がまだ甘い」という話も最後の方に出てきていたが、当事者同士で認識のすり合わせも、歴史を明らかにする手続きも、歴史としての相互の研究も、ほとんどされていないようだ。つまりフランスはフランス側で自分たちに都合の悪いことには蓋をして、アルジェリア側はアルジェリア側で被害者として自国に都合のいい神話を作り上げている。
この本の雰囲気からしても、第三者の日本人ほうが両者を公平に見て意義のある研究が出来ているのかもしれない。
というわけで、この本は日本ではあまり見かけない、フランスによる過酷な北アフリカ統治の一端を垣間見せてくれるものだった。
そして歴史本としては胸糞系である。現実世界に英雄はいないし、スッキリ独立ENDどころかビターエンドですら無い。大量死亡バッドENDからの絶望から這い上がってなんとかやってます!な状態が「今」である。
つくづく日本は植民地化されなくて良かったと思う。ヨーロッパから遠かった地理に感謝したい。
中国までは来てたからなあ、ほんと危なかったよね…。
******
補足事項
植民地支配のような歴史イベントの場合、支配側=加害者、被支配側=被害者と無意識に考えてしまいがちだが、実際の歴史では加害者と被害者はまだら模様に分布する。
たとえば入植者側人につく現地民がいて、現地民同士で殺し合うケース。入植者をリンチにする地元民。また逆に地元民を庇って本国の人に罰を受ける入植者もいたかもしれない。多くの戦争や紛争でそうであるように、敵味方はきれいに分かれるものではないのだ。
「歴史」としての解釈をする場合、それらを一方の視点に固定されず客観的に評価する作業が必ず必要になる。
先の戦争における日朝や日中の関係では、一部ヒステリックに騒ぐ人や、認識を曲げて極端な評価をする人もいるものの、良識ある冷静な研究者は少なくない。韓国から出版された(そして物議を醸した)以下の本が存在するのも、その証左と考えている。

帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い (朝日文庫) - 朴 裕河
※参考までに、この本の内容はこういう感じです
北アフリカ、マグリブと呼ばれる地域をフランスがいかに植民地化し、ズタボロにしていったか、という話を書いた本。
アルジェリアはフランスからの独立にあたり、全人口300万人のうち50万人とも言われる死者を出したという。が、それもこれ読むと「そら大量に死者出しても独立しようとするわこれは」と思わせられる内容だった。

アルジェリアにおける植民地支配の構造と展開――フランスの土地政策と農村社会の変容 - 小山田 紀子
端的に言うと、搾取しすぎなんである…。
アルジェリアはフランス植民地になる以前はオスマントルコが間接統治していたわけだが、オスマンの統治は人頭税とかは取り立てていても、国民を奴隷扱いするとか飢えさせるとかはしていない。が、フランス統治に入ってからはヨーロッパ移民優位の植民地政策で、地元民から土地を取り上げ、法律的にも不利な状況に置き、それを「近代化」と呼んでいる。
地元文化やコミュニティは破壊され、本国フランスにとって都合のいい農作物を作らせるためのモノカルチャー経済にして、土地を取り上げた農民をそこで働かせるなど無茶苦茶やってるので、胸糞が悪いどころではない。
まあ統治ヘッタクソ。
ライバルのイギリスが先に外洋に出てカリブ海とかの植民地でブイブイ言わせてるのに追いつきかったんだろうけど、いくら何でもやり方が雑すぎるというか。
ニューカレドニアの事例といい、ハイチの事例といい、フランス植民地はとにかく予後が悪い地域が多いが、統治のやり方がお貴族様的すぎる。現地住民や文化を徹底的に破壊した挙げ句、解消できない禍根を残して放り出すというのがフランスの植民地支配なので、そこはもうちょっとイギリス君のジョンブルな建前を見習ったほうがいいのでは…。(まあイギリス植民地も大概だけど)
オスマン時代の支配に問題が無かったわけでもないけど、その後がひどすぎたんだなあ…。
アルジェリアは独立後もゴタゴタがあってなかなか治安が安定しなかったり、10年くらい前まで内戦やってたりとずっと不安定なままだったが、国家の基盤となる部分が破壊されてからの再生だと建て直しも厳しかったんだろうなと思った。
それと、アルジェリアワインというのがあるのは知ってたけど、まさかのフランス植民地時代の産物。最近あんまり栽培されてないと聞いてたけど、経緯を知るとそりゃそうなるなという感じ。
そしてこの本、日本の研究者が書いているのだが、なんと資料はぜんぶフランスにあって、フランスまで行かないと研究出来なかったらしい。
アルジェリアの歴史なのに何で? という話だが、アルジェリアが独立してフランス人支配者が引き上げる時に、植民地時代の資料や記録を全部本国に持ち帰ってしまったからなんだとか。
つまりアルジェリア人、自国にある資料では植民地時代の自国の歴史は研究出来ない。つらい。
それもあってか、フランスとアルジェリアの過去は未だ精算されたものとは見なされておらず、独立戦争が戦争と認識されたのもかなり最近のことらしい。
「日朝関係や日中関係に比べると歴史認識がまだ甘い」という話も最後の方に出てきていたが、当事者同士で認識のすり合わせも、歴史を明らかにする手続きも、歴史としての相互の研究も、ほとんどされていないようだ。つまりフランスはフランス側で自分たちに都合の悪いことには蓋をして、アルジェリア側はアルジェリア側で被害者として自国に都合のいい神話を作り上げている。
この本の雰囲気からしても、第三者の日本人ほうが両者を公平に見て意義のある研究が出来ているのかもしれない。
というわけで、この本は日本ではあまり見かけない、フランスによる過酷な北アフリカ統治の一端を垣間見せてくれるものだった。
そして歴史本としては胸糞系である。現実世界に英雄はいないし、スッキリ独立ENDどころかビターエンドですら無い。大量死亡バッドENDからの絶望から這い上がってなんとかやってます!な状態が「今」である。
つくづく日本は植民地化されなくて良かったと思う。ヨーロッパから遠かった地理に感謝したい。
中国までは来てたからなあ、ほんと危なかったよね…。
******
補足事項
植民地支配のような歴史イベントの場合、支配側=加害者、被支配側=被害者と無意識に考えてしまいがちだが、実際の歴史では加害者と被害者はまだら模様に分布する。
たとえば入植者側人につく現地民がいて、現地民同士で殺し合うケース。入植者をリンチにする地元民。また逆に地元民を庇って本国の人に罰を受ける入植者もいたかもしれない。多くの戦争や紛争でそうであるように、敵味方はきれいに分かれるものではないのだ。
「歴史」としての解釈をする場合、それらを一方の視点に固定されず客観的に評価する作業が必ず必要になる。
先の戦争における日朝や日中の関係では、一部ヒステリックに騒ぐ人や、認識を曲げて極端な評価をする人もいるものの、良識ある冷静な研究者は少なくない。韓国から出版された(そして物議を醸した)以下の本が存在するのも、その証左と考えている。

帝国の慰安婦 植民地支配と記憶の闘い (朝日文庫) - 朴 裕河
※参考までに、この本の内容はこういう感じです