一足飛びに大仰な結論出しすぎでは…? 「中国出土の頭蓋骨、人類進化の時系列塗り替える可能性」

ほんの数個の頭蓋骨の復元だけで、いきなりこれは言い過ぎだろ。と思ったのだが、このところの中国さんから出てくる研究論文見てると、この先も同じような論調の論文は出してくるんだろうなと思ったので、いちおうメモがわりに残しておく。

中国出土の頭蓋骨、人類進化の時系列塗り替える可能性
https://www.cnn.co.jp/fringe/35238495.html

元論文はこれ
The phylogenetic position of the Yunxian cranium elucidates the origin of Homo longi and the Denisovans
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado9202

まず前提として、「ホモ・ロンギ」と呼んでいるホモ族は、英語だとドラゴン・マンという通称でも出てくる種類。
4-5年前にハルビンで発見されたもので、「これホモ・サピエンスの範疇に入ってるんじゃね? 新しい名前いらんくね??」という感じで、この種族名を認めていない学者も多い。

中国で発見された人類の頭骨、新種「竜人」と報告、懐疑の声も
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/062900330/?P=1

また、最近このドラゴン・マンがデニソワ人と近縁という研究もでており、そもそもデニソワ人自体がホモ・サピエンスの亜種と考えられているので、独立した種で呼んでいいのかはかなり微妙なところ。
それに対し、ネアンデルタールは確実にホモ・サピエンスと異なる種とみなされている。

で、今回の研究では、このホモ・ロンギと呼ばれている頭蓋骨を本来の形に「復元」し、形質的な特徴から進化系統を明らかにしようとしている。具体的に言うと、化石化して潰れてしまった骨をコンピューターグラフィックで生前の形に再現して、特徴から進化系統樹の中に位置づけようとしている。

以下の図がそれ。灰色部分は現生人類だが、同じ現生人類でも頭蓋骨の形には個人差があり、かなりバラけていることが分かる。
それ以外の位置にあるのは遠い種のもの、紫色の部分にあるのが今回分析された骨。下の方にある緑色はアウストラロピテクス、水色がパラントロプスでいわゆる猿人なので、進化によって脳が巨大化するごとに種として現生人類に近い位置になっているのが分かる。

science.ado9202-f3.jpg

…まあ、それはいいんだけど…
たったこれだけから進化の系統樹を確定事項みたに描くのは、だいぶ無理がありすぎるんじゃね…? というのが正直なところ。

現生人類とデニソワ人が最後に共通の祖先を持ったのは約132万年前、ネアンデルタール人は約138万年前に分離した、と述べているけれど、それはこれまでのゲノム解析から導き出された種の分岐の推測時期とは大きくズレている。
ホモ・サピエンスの誕生は今まで10~30万年くらい前とされてきた。それをいきなり二倍以上も遡らせ、「実は他の種とは100万年以上前に分離してました!」と言い出しても、他の証拠との整合性が取れない。

というか、いま世界中に拡散している現生人類の遺伝的多様性が低いことはよく知られていて、その大きな理由が「種としての歴史が浅いので、まだそこまで多様性が生まれていない」だとされてきたんですよ。アフリカに最も多様性が多く、それ以外の地域に少ないのも、種が誕生したのがほんの数十万年前のアフリカだったからだと説明されてきた。

それをいきなり100万年もの歴史がありまぁす!ってことにしちゃうと、その100万年分の変異の蓄積が無いんだが…? という話になってしまうし、アフリカから出たのが7-8万年前ってことになってるけど、それまで何してたん…? ということにもなってしまう。

これ、頭蓋骨の復元まではまだいいとして、進化系統樹やホモ・サピエンスの歴史までは、さすがに言い過ぎたよね。という感じ。


というか、もしかして以前書いた、このへんが関係してくるのでは…。

人類の起源と古人類学の常識の転換期:現在何が問題になってるかということ
https://55096962.seesaa.net/article/202204article_7.html

人類の「出アフリカ」は一直線の道ではなかった。最近のトレンド学説が複雑怪奇に
https://55096962.seesaa.net/article/499465184.html

いずれにせよ、これまでの先行研究との整合性が取れないのなら、眉に唾つけながら専門家が揉むのを眺めてるくらいでいいと思う。
科学の世界というのは、同じ証拠や研究内容を前にしても出す結論はひっくり返ることもある。そして、「定説が何の前置きもなく覆ることは無い」。だいたい前置きというか、前段となる研究が出されたあとに決定打がくるものなので。