ヨーロッパ側視点から見た海のならず者たち「バルバリア海賊盛衰記」

バルバリア海賊とは、北アフリカ、主にアルジェ・チュニス・トリポリ付近を拠点として海賊行為を行った人々に対して使われる名称。主に16世紀以降、19世紀初頭あたりまで活動は続いた。
有名どころは「バルバロッサ」ことウルージ・レイス、ハイレッディン・レイス兄弟で、この兄弟の時代にアルジェが一大海賊拠点として占領される。ハイレッディンはオスマン帝国にアルジェを献上し傘下に入ったため、以降、海賊の拠点はオスマン帝国の外地としても機能する。

(このあたりは大航海時代シリーズをプレイした人なら、既に良く知っている内容かと思う)

この本はその時代の開始から衰退までの内容になっている。
だーーーーーーいぶ古い本なのだが、まあ、そんな新しい発見があるジャンルでもないので問題はない。むしろ古い分時代劇っぽい文体とかが面白い。
そしてイギリスの学者が書いててヨーロッパ視点のためか海賊を「蛮族」呼ばわりしまくっているのと、イギリスらしいフランスへの悪態が密かに面白い本でもある。

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バルバリア海賊が重要なのは、大航海時代にヨーロッパ各国が外洋にでていかないといけなかった一つの要因でもあるからだ。この海賊連中が地中海を牛耳っていたから、ヨーロッパの船はその海域を避けるしかなかった。ベネチアやジェノバといった海洋都市国家も頑張りはしたのだが、次第に勢いに押され制海権を少しずつ削られていくことになる。アルジェの向かいにあるフランスもバルバノア海賊にこてんぱんにやられた勢力の一つであり、外洋への進出は遅れた。

そもそもレイス兄弟がアルジェに陣取った初期にスペインがもうちょい頑張ってればさぁ…という話もあるのだが、そのへんの話もこの本には出てくるとおりの顛末である。皆で一丸となって立ち向かう、みたいなことは出来なかったんである。

16世紀には、海賊たちはガレー船を使って海賊行為を働いており、当然ながら漕ぎ手が必要になったため捉えたキリスト教徒たちを奴隷として船に載せた。逆に海賊側が負けた場合にはヨーロッパ勢のガレー船に繋がれることになった。この本はヨーロッパ目線なので、ヨーロッパ人奴隷が大量に使い捨てられたことや買い戻しに苦労した話が多く取り上げられているが、逆もまた然りである。

17世紀には帆船がトレンドとなり航海技術も大きく進歩する。それでも捕らえられ奴隷にされるヨーロッパ人は少なくはなく、海賊たちも18世紀までは周辺を荒らしまくっていた。

で、イギリスとかアメリカとかの艦隊が登場して海賊たちを打ちのめし、最後にフランスがやってきてアルジェを占領して植民地化するところで終わり。
著者の皮肉はたぶんここに効いていて、「フランスなんもせずに弱った相手を占領しただけだよねw」「蛮族を文明化してやるのだ的な態度だけどその蛮族に負け続けてきたよねw」と言いたいんじゃないかな…と読める終わり方だった。

全般的にヨーロッパからの一方向の視点になっているのだが、ヨーロッパでのバルバリア海賊に対する研究の論調がどうなのかという話はよく分かる。ヨーロッパ諸国にとっては、地中海の制海権を失っていた数世紀、略奪され放題だった時代は屈辱の歴史と捉えられており、敵は蛮族であり、対処出来なかったフランスやスペインは不甲斐ないのだ。そしてフランスがアルジェを占領した際の二枚舌は、イギリス自身似たようなものだったにも関わらず、裏切りと見做されたのだ。


この本は1894年に出た本の訳書だという。
ということは百年以上も前なわけで、それこそエジプトの遺跡ですら「原住民にこんな高度なものを作れるはずがない、白人か宇宙人が作ったと考えるほうが現実味がある」とまで言われていた時代である。
その時代の物の見方を、今更どうこうは言わない。その時代には当然とされた言説だからだ。

ただ、それが分かっているからこそ、今の時代にイスラム圏、トルコもしくは北アフリカ諸国からの視点で書くとどんな論調になるのかは気になるところだ。学者の論調というものは、時代の風潮、世間の雰囲気を反映することが多い。
さすがに蛮族呼ばわりは無くなるだろうし、フランスによる占領ももう少し慎重な書き方をするとは思うが…。