「言語を操るのは人間だけ」という常識はもう古い、動物言語学と神話・人類学が交わる箇所とは

こないだ「サピエンス全史」にツッコミを入れたが、本当はまだまだツッコミどころがある。というか書ききれないくらい全ページにツッコミどころがあるのだが、そのために真剣に読むのも面倒くさくてほとんどの内容はスルーしてしまった。

そんな、こぼれ落ちたツッコミどころの一つが「人間が言語を使うようになった理由」である。人間が言語を使うようになったのは集団内での"
ウワサ話"だった、と書いているのは、さすがに「お前その貧弱な発想はどこソースよ??」と言ってやろうかと思ったくらいだ。
言語を使うなら集団内の問題ではなく「外」に要因がある。具体的に言えば、最初の言語は「危険を知らせる」とか「エサのありかを知らせる」とか「集合の合図」とか、生存に直結する内容のはずである。
そのくらいは動物界では常識で、危険を知らせる叫び声を上げない動物はいない。というか知らない。

仲間内での会話や、コミュニケーションに必要な言語は、群れを作る動物なら持っていてもおかしくないが、言語が「そこ」からスタートしたと見なす妥当性は無い。

…というのをイチから書くのがガチ面倒だったのだが、ふと思い出したのが少し前に話題になった↓である。

僕には鳥の言葉がわかる - 鈴木俊貴
僕には鳥の言葉がわかる - 鈴木俊貴

シジュウカラを題材に、鳥が操る言語をどう解き明かしていったか、という話である。
この本が出たのは最近だが、「鳥に言語がある」という話自体はだいぶ前から知っていた。
というか、ちゃんとした研究になったのが最近なだけで、バードウォッチャーや田舎住みの人はなんとなく知ってたのではないかと思う。ツバメは巣が狙われてる時しか出さない鳴き方あるし、カラスは子供を呼ぶときだけしか出さない声がある…みたいなやつ。一羽が鳴くと二羽目が答えるように鳴くコミュニケーションも結構ある。

この本によれば、シジュウカラの鳴き方には文法があり、ヤマガラなど近縁種の鳴き声でも意味が通じるし、日本のシジュウカラの鳴き声はフィンランドの近縁種にも通じるという。つまりは人間の言葉同様に、鳥の言葉にも「訛」や「xx語系統」のようなものがあり、種の進化とともに受け継がれてきた可能性があるということだ。

最近では、鳥以外の種族についても言語があることが研究されてきている。言語は息を吸い込んで吐き出す「音」が基調となっているから、もしかしたら、陸上生物の最初のご先祖様が陸上に上がって肺呼吸を開始した当時から「言語」は存在したかもしれない。

ここまでわかった「動物の言葉」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/327803/052000034/

だとすると、「言語」の用途や、最初に発生した「言葉」は何だったのか、という発想は、そこまでさかのぼる必要がある。
言語は人間だけが持つものではなく、人間が発達させてきた独自技能でもない。そして、人間がまだサルと区別がつかなかった時代にも、すでに「言葉」は存在したはずなのだから…。(もちろんサルの時点で群れは作っているので、コミュニケーション系の言語は必要だったと考えられる)

前回「サピエンス全史」にツッコミを入れたときにも、町から出ない都会人の机上の空論じみた本だと評価したけれど、ここもそう感じられる点の一つなのだ。


ただ、「鳥に言語がある」という事実とともに、「その言葉が異種族間でも通じる」というのは、神話学・民俗学などをやってる人なら「ああ、あれのことか」と気が付く知識がすぐに出てくるのではないかと思う。

たとえばアフリカの民話で、ハゲタカに導かれて死んだばかりのエモノにたどり着く話とか。これはハゲタカがエモノを見つけて仲間を呼ぶ声を聴き分けているのである。

北米インディオの神話では、ワタリガラスが岸辺に打ち上げられたクジラを見つけると人間を呼ぶという。これは人間にクジラの固い表皮を切り裂かせて、おこぼれにあずかるため。

という具合に、鳴き声で仲間や異種族を呼ぶ、警告する、などの話はよく出てくる。言語を操れるのが人間だけだと思い込んでる人、動物に言語があると知って衝撃を受ける人は、学問ジャンルに因るというよりは、欧米の一神教的価値観に染まってるからなのでは、という気がしている。

なによりここは、伝統的に生き物を擬人化して人間同様に扱ってきた日本文化圏だ。しかも国土の7割が森林で身近に必ず山と自然があるこの国の住民にとっては、「鳥がしゃべってる」くらいの事実は、それほどの衝撃でもないし皆うすうす気が付いてた…と思うのだ。もちろん、研究で立証され、その一神教的価値観の国の人たちにも広く知らしめられたのは大きな意義なのだけれど。


****
余談だが、中の人は毎年、春になるとシジュウカラの「ツツピーツツピー」にたたき起こされている。
なんか近所のどこかで繁殖してるらしく、それはいいとして、なぜか朝になるとうちの目の前の電線でナワバリ宣言の声を張り上げるのだ。あと姿はキレイなのに声がダミ声のカラスなオナガちゃん…。春から初夏にかけては、とにかく鳥の声がうるさい。

私は鳥の言葉がわからなくてよかったと思う。いや、わかりたくない。「鳥の声だな」くらいの雑な認識であれば背景音として聞き流せるが、言ってる意味が分かってしまったら気になって仕方がなくなるだろうからだ。

ただ、唯一、逆にあまりにも鳴き声を上げなさ過ぎて、「お前なんかしゃべれよ」と言いたくなる鳥がいる。
アオサギである。
鳥界の寡黙キャラ。

…なんか気が付いたら畑の淵に立って、じーっとこっち見てるんだよね。
何考えてるか全然わかんないから、あいつの鳴き声だけはぜひ誰かに研究してもらいたい。