これは多分ツッコみ待ち。オーストラリアへの人類の移住、6万5千年前まで遡らせようとする新たな試みが成される

本編に入る前に、まずは前段となる去年時点での研究内容を確認してほしい。
オーストラリア大陸(海水面の低かった時代はニュージーランドと合体した"サフル"大陸と呼ばれる)に、最初に人類が渡ったのはいつだったのか、について、現状、約5万年前説と6万年以上前説の2通りがある。多くの学者は前者の年代を取っているが、今回の研究は後者の、より古い説を取ろうとしている。

(2024年時点の論文)
人類のオーストラリア遠征6万年前説はおそらく間違い。だが行程の一部は明らかに。
https://55096962.seesaa.net/article/504516663.html

上記で紹介した論文のとおり、実際に発見される遺跡の年代からすれば5万5千年前が限度だろう。しかし今回出た別の論文では、オーストラリア先住民や古代人の遺骨などから回収したミトコンドリアDNAの系統樹を用いて、最も古い年代である6万年前を持ち出している。
どう読んでも、これだけで6万年以上前にサフルに到達したのは明らか!と言うにはだいぶキツい内容だと思うので、ツッコミ待ちだろうなあ。…とは思うのだが、経緯を追うためにいちおうメモしておこうと思う。

Genomic evidence supports the “long chronology” for the peopling of Sahul
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ady9493

まず1つ目の大きな問題点は、ミトコンドリアDNAのタイプが分岐したあと、そのタイプが「いつ」オーストラリアに入ったかが証明出来ないことである。
本文内に「M系統」とか「N系統」とか系統名が出てくるのだが、これらの系統は現生人類がアフリカを出たあと、ユーラシア大陸で突然変異によって発生した系統であることは分かっている。発生しただいたいの時代も分かっている。
しかし、その時代以降なら「いつでも」オーストラリアに渡って、他の系統に混じることが出来る。

極端な話、アフリカにしか存在しないL系統のミトコンドリアDNAを持つ少数の人間が7万年前にオーストラリアに渡ったあと、6万年前にM系統のまとまった人数が渡って来てデータを上書きしたとしても、未来からはその状況が見えない。そもそも最初にオーストラリアに渡った人数は、おそらくそれほど大規模なものではない。だとすれば、現在残ってる/データとして回収できるミトコンドリアDNAのタイプや割合が、一番最初の集団の状況を反映している可能性はかなり低いのではないだろうか。

むしろ、後世にスンダランド(現在のインドネシア近辺)から渡ってきた後発組の影響のほうが強い可能性すらあるので、全然違う傾向に変わっている可能性も考えたほうがいいと思う。


また、ミトコンドリアDNAの型の発生と、人間集団のオーストラリアへの移動の時期が同じと見なせる根拠が薄い。
オーストラリア特有の型はピンク、確かにピンク系統の分岐した時代だけ見れば6万年前なのだが、この系統がオーストラリアに渡った「あと」で発生したものなのか、渡る「手前」で発生したものなのかは分からない。

sciadv.ady9493-f2.jpg

これは、たとえば、ベーリング海峡を渡ってアラスカから新大陸へ向かった人間集団が、移動前にベーリング海峡で千年くらいは留まっており、いったんそこで遺伝的な特性を確立させてから拡散していったとされていることを思い出してみるとわかりやすい。オーストラリアに渡る前に、手前の島で何千年か足踏みしなかった可能性のほうが低い。
変異が発生したのが6万年くらい前なら、そこからしばらく経った5年万くらい前のほうが移住の時代としては妥当と思える。


また、ミトコンドリアDNAは1つの細胞内に大量に存在することや長さが短いことから分析しやすいのだが、母系でしか遺伝されないため母系統での分析しか出来ないことも問題だ。最初の移住者が男女同数ならまだいいのだが、そうでなかった場合はデータが偏ってしまうかもしれない。
(論文の最後の方に男系での分析、Y染色体の話も少し出てくるがまとまりきっていなかった)


いずれにしても、以前から言われている北回りと南回りのルートが想定されていることと、どんなに新しくても5万年前までには移住していたことは確認出来た。


そもそも、このオーストラリアへの人類の移住は5万年前か6万年前かで何か大きく変わるわけではない。ヤバイのは、その時代に「船を作って海を渡れた」ことである。海面が最高だった時代ですら、オーストラリアは「見えない水平線の向こう」にある土地であり、高度な航海術と、何日もかかる航路を渡れる頑丈な船が無ければ不可能だった。
5万年前でも6万年前でも、どちらの時代を採用しても、その時代にその技術はほぼオーパーツみたいなもんである。アボリジニアの祖先たちは一体何を使って船を作ったのか、どうやって海を渡ったのかがサッパリ分からない。

sciadv.ady9493-f4.jpg

年代論争は適度でいいので、そっちの謎の解明に力を注いでくれたほうが面白そうなんだけどなあ…。


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[>オマケ
今までに色々調べた、「海をわたる人類」についての記事。航海術って、人類史上かなりのインパクトを持つ発明だったと思うんですよ。


航海術に優れたオセアニア住民でも海で遭難することは結構あった。
https://55096962.seesaa.net/article/201811article_2.html

島で生き抜くために必要なこととは。「島に住む人類」
https://55096962.seesaa.net/article/201810article_18.html

考古学論文と見せかけた巧妙なサツマイモ・キャンペーン「ニュージーランド先住民は南米産サツマイモを栽培してた!」
https://55096962.seesaa.net/article/505055681.html

マダガスカル島への哺乳類の移住方法とは/人間とそれ以外
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_7.html