エジプトのグリフィンは早く飛ぶか。幻獣だと思ってたものがグリフィンの変形だった件について

もうかれこれ8年ほど前、コロナ禍の前に「ケルビムはスフィンクスかグリフィンか」という講義を聞きに行った。講義者の先生は、1時間枠で語りたりなさそうな顔をしていたのだが、その後、グリフィンネタだけで一冊本が出ていたことを知った。

ものすごい情報量の濃さで、そりゃ元の研究がこのボリュームだったら1時間で語り尽くせねえよ、いやむしろあの1時間も濃すぎると思ってたけどあの濃さのまま一日語れるくらいの量あるな、という感じ。これは神話マニアにはぜひ読んでほしい本。とてもとても楽しかった。

グリフィンの飛翔: 聖獣からみた文化交流 (ユーラシア考古学選書) - 林 俊雄
グリフィンの飛翔: 聖獣からみた文化交流 (ユーラシア考古学選書) - 林 俊雄

で、その中で異彩を放っていたのがエジプトセクション。グリフィンはスーサ近辺で誕生し、そこからメソポタミアを経由してエジプトにやってくるのだが、エジプトに入って以降は独自路線で進化していく。

その一形態として書かれていたのが、こちらの「アケク」である。
……。

……えっ、こいつグリフィンだったの???!!

qgjhkk.JPG

実は本体サイトのほうに放置したまま、長年「こいつ良くわからんなあ」と思っていた幻獣シリーズの一体なんである。
いや…なんかグリフィンっぽい見た目だなとは思ってたしグリフィンみたいって自分も説明書いてるけど…。ほんとにグリフィンに分類しちゃっていいの? ほんとに?
http://www.moonover.jp/bekkan/god/gengyu.htm

いや確かに、本の中には車を引くタイプのグリフィンもいるって書かれてるしメソポタミアの類似の図像も出してくれてるけど。同時代のクレタ島経由、もしくはシリア起源の図像の転嫁かもしれないのか。完全にエジプトオリジナルの幻獣だと思ってたので、近辺地域の類似する図像を確認していなかった。これは盲点。

名前も「速い」という意味かもしれないそうで、だとすると、走ってるっぽい姿で描かれてるのは、めちゃくちゃ早く走ってる(飛んでる?)という意味の図だったのかも。そんで仲間の羽根生えた幻獣たちも、たぶんみんな速いんだろうな…。


ただ、このグリフィンが「シェドゥ(Shedu)」神の乗り物に使われている、というのはおそらく間違いである。シェドゥという神はエジプトにはいない。メソポタミアの羽根の生えた人頭像の名前がこれなので、おそらく情報がなんかと入り混じってしまってると思う。

wetfgh.gif

戦車に乗って戦う神はそんなに多くはない。ソプドゥとかの外来系の神じゃないかな…。


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実在する生き物ではないにもかかわらず、時代を越え、地域を越えて連綿と描き続けられたグリフィンという図像の系譜。読んでいると、どこまでがグリフィンと呼んでいい存在なのか分からなくなってくる部分もあるのだが(たとえばムシュフシュは入れていいのか、とか)、実に多彩なグリフィンのあり方を知ることが出来た。

どのように東方に伝わっていったのか、という後半部分がおそらく著者の一番語りたかった部分だと思うのだが、そこにもう少し紙面があればよかったかな。いちおう最後に日本に入ってくるところで終わる。ちなみに日本のグリフィンの代表例は日本橋のコレ↓らしい。

wsfgg.png
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/01soumu-archives/07edo_tokyo/0717nihonbashi

そう、「麒麟」である。これもグリフィンに入るのかー入れていいのかー?!! と思いながら読んでいた。まあ系譜を辿れば確かにグリフィン…かもしれない…単品で見た時に一発でグリフィンと認識するのは難しいけど…。