アルジェリア(5) 砂漠の線刻画とキャンバスとなる岩について

ペイントされた岩絵の次は線刻画、岩に線で刻まれた岩絵のほうについて。
これは初日に見たティン・タガートの岩絵からして、「劣化しにくい硬い岩」「かつての水源の近く」にあると予想していたのだが、おおむね予想通りだった。

まずジャネットの街から30分ほどの場所にある「泣くウシ」の岩絵。これはサハラが最後に緑だった2,000年くらい前のもので、岩絵の中では新しい部類だという。
ウシが泣いているように見える絵だが、かつてここにあった、牛飼いたちの利用していた水場が干上がって枯れ果ててしまった嘆きを表したものと伝承されているそうだ。

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近づくと地面が粘土質でかつて水底だったことを思わせる。また、遠くから見ると岩に水の侵食跡らしきものがあり、周囲が窪地になっていることから、かつては浅い湖だったのではないだろうか。周囲に植物もいくらか生えており、地下にはまだ水が残っているようなので「水源地の近く」の条件もクリアしている。

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現在は周辺のどこにも水は無いのだが、緑は多く、表面に水がないだけで一種のオアシスのような緑地帯になっていた。
なお今回の砂漠の旅では、牛は一頭も見かけていない。ラクダ、ウマ、ヤギ、ニワトリのみだ。牛を飼わなくなったか、この気候では飼えないのだと思う。


続いてこちら、砂漠の中のランドマーク的なポイントとなっている岩絵。砂漠の入口に近いところにあるため、観光客はだいたいここを通るらしく、少し混雑していた。
これはゾウやキリンがモチーフなので砂漠がまだ緑豊かだった古い時代のもの。そのへんの石でゴリゴリ岩に刻んでいる絵のため、大味でワイルドな感じ。
これらの石がある場所の高くに緑はないが、地形と地面の雰囲気からして枯れ谷の底だと思われる。かつては川だったかもしれないが、今はただ泥っぽい砂が溜まっているだけの場所。

枯れ谷は雨季にだけ川になったりする。今だと年1回くらいしか雨が降らないらしいのだが、その時期だけは水が流れるのではないだろうか。

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ここなんかはわかりやすい。川底だった部分だけ砂の質が違って粘土っぽくなっている。

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キリンの絵のある岩から振り返ると、サバンナめいた緑の点在する風景が広がっている。ここもおそらく元は川だ。
岩にこれを刻んだ人は、川べりに水を飲みに来たキリンを実際に見ていただろう。写真も、本も無かった時代、こんなに模様まで正確な描写をするには、身近に見慣れていなければ不可能だ。ツノや頭の盛り上がり、顔の模様まで実にリアルでよく描けている。

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この、線刻画の刻まれている黒っぽい硬い岩は砂漠のあちこちで見かけた。どうも線刻画を刻むのはこの石材が適していたようで、他の場所も、線刻画が刻まれているのは軒並みこの岩だった。ペイントされた彩色画のキャンバスとして好まれたベージュ色の岩肌とは全然手触りが違う。例えるなら、油絵の具に適した硬いキャンバスと、水彩絵の具がよく染み込む吸水性の画用紙の違いみたいな感じ。

硬い岩は、隆起した古い地層部分に多い。
さきのゾウやキリンの描かれた岩絵は、崖から地面に転がり落ちた岩の破片。遠くから崖全体を見回すと、そのことがよくわかる。(カメラを構えている人がいるところが岩絵のある場所、背後の崖がその岩が元あった場所)

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この黒い石はとにかく線刻画に大人気。古い時代のものには謎のグルグル渦巻きがたくさん出てくる。
グルグル渦巻きのモチーフは、古今東西、世界各地のありとあらゆる遺跡に登場する。いったい人類はなぜ渦巻きに惹かれてしまうのか。それもまた大いなる謎である。ていうかサハラにこの絵があるってことは、アフリカ出発時に既にグルグル渦巻きブームを持ってて、出アフリカ後も定期的にハマっていたりしたんだろうか…。

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この黒い岩、時代を越えて線刻画に使われてきたらしく、古い時代の絵の横にベルベル文字が描かれているものもいくつかあった。

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面白いものだと、アラビア語とベルベル文字の落書き(?)もある。
アラビア語部分は、地元ガイドさんいわく「コーランではない、古い時代の太陽の神について書いた祈りの言葉」らしい。グーグルレンズに読み込ませるとアラビア語として認識されるので、わりと最近のものなのかな? と思う。

ベルベル文字のほうはティフナグ文字としては認識されなかったので、最近のものではなく、ティフナグ文字のルーツにあたるリビコ・ベルベル文字(古ベルベル文字)のほうかもしれない。

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というわけで、線刻画のある場所については事前の予想どおり、かつての水源地に近い、特定の種類の硬い岩の上に多く描かれている、という結果になった。
そして、サハラが緑だった時代から、わりと最近まで継続して線刻画が刻まれ続けてきたことも分かった。

…というか、最近まで刻まれ続けてきたせいで、「これ絶対ここ100年くらいの間に書いただろ…」みたいな線刻画もあったりしたのだがw
あれだ。ピラミッドに刻まれた19世紀の落書きみたいな感じ。まあそれも何百年か経てば遺跡とか歴史記録になるんだろうけどね。


ペイントされた彩色画と線刻画のロケーションを比べてみた場合は、以下のような違いがある。
やっぱ実際に見て回らないとなかなか気が付かない点も多いなと。こういう基本的なことは本には書いていない…。

・線刻画は住居から遠い場所にある(出先の水場、街道代わりに使われていただろう川沿いなど)
・川べりの目立つデカい岩などにでっかく描かれた絵が多い。場所の目印として描かれて、かつてはランドマーク的な使われ方をしていたのかも?(彩色画は個人の楽しみっぽい雰囲気だった)
・絵の具を持ち運ばなくても時間さえかければそのへんにある石で手軽に描けるためか、時代をまたいで刻まれた形跡がある
・キャンバスとなる岩の好みは意外とはっきりしている。描く場所/岩は選ばれている

今回見て回ったのは有名な見どころ岩絵ばかりだったので全体を見渡すと違う部分もあるかもしれないが、概ねの傾向は掴めたので良しとしよう。


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