古代エジプトで神と崇められたワニ、実は「ナイルワニ」と「西アフリカワニ(セベクワニ)」の二種類存在した:最近判明した新事実

ここまでの経緯:
アルジェリア南方のサハラ砂漠に岩絵を見に行ったら、途中立ち寄ったオアシスの村になぜかワニの干物が展示されていた
→なんだこれ?
→帰国して調べたら、サハラが砂漠化する過程で取り残されて、最近まで近くに生き残っていたワニらしい
→DNAが解析され、10年くらい前に新種として成立していた
→エジプトミイラを調べたら、そのワニと同種が混じってると判明したという
→つまり古代エジプトの時代、ナイル川には二種類のワニが存在した…? どういうことだってばよ

<イマココ>

というわけで、いつもどおり(?) ちょっとした興味から調べたことが何故かエジプトに繋がったぞ。という話である。
結論から行くが、まず、現在のアフリカでのワニの生息域はだいたい以下のようになっているらしい。

ナイルワニ(Crocodylus niloticus)の生息域は、アフリカの東部/南部。
西アフリカワニ/セベクワニ(Crocodylus suchus)の生息域は、アフリカの中部/西部。


しかし、2,000年前には西アフリカワニもナイル川流域でナイルワニとともに暮らしていた。
これはエジプトに豊富に残されたワニのミイラから判明している。そしてミイラ化されたワニ=神格化されたワニであり、神の眷属とされるワニには二種類いたということなのだ。

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より獰猛で大型化するナイルワニと、小型で性質が比較的穏やかな西アフリカワニは、もしかしたらエジプト神話のセベク神に代表されるワニ神の「荒々しさ」と「豊穣などを司る有益な側面」という二面性をそれぞれ表しているかもしれない。また、神殿の庭で飼われたというワニは、大人しい西アフリカワニのほうだったかもしれない。

少なくとも、古代エジプト人は両者を、ともにワニ神の眷属と見なしていたようだ。
残されたミイラからは両方の種がみつかっているという。DNA解析の技術が進歩した現代ならではの発見だろう。


この新種の「西アフリカワニ」を発見した経緯と、その発見者へのインタビュー記事は以下。

Meet the scientist uncovering crocodiles’ ancient secrets
https://scienceline.org/2022/08/meet-the-scientist-uncovering-crocodiles-ancient-secrets/


学生だった時にたまたま分析したワニのDNAが既存種と一致せず、なんじゃこりゃ?? となったところからスタートしたらしい。
で、どうやらナイルワニと別種が存在したものの、サハラ砂漠に分断されたごく一部の地域にしい生き残っていない。しかしよく調べてみると、ナポレオンがエジプト遠征した時に作られた調査報告書「エジプト誌」や、ヘロドトスによる記録には、ワニは二種類いるという記載がある。
なら昔からワニは二種類いて、気候変動や人的要因で西アフリカワニの生息域が狭まってしまったのが現在なのでは…? と考えたらしい。

となれば、エジプトミイラを研究するのは必然と言える。
以下が実際にエジプトのワニのミイラからDNAを抽出した時の論文。これにより、少なくとも2,000年前の時点では、エジプトのナイル川沿いのどこかに西アフリカワニが存在したことが証明された。

The secrets of Sobek – A crocodile mummy mitogenome from ancient Egypt
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2352409X20302741

というわけで、古代エジプトで神聖視されたワニは「ナイルワニ」と「西アフリカワニ」の二種類いた、という結論になる。
すべてナイルワニと思われてていたミイラに別の種が混じってると特定されたのがここ10年以内のことなので、古い本だとこの情報は出てこない。


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ちなみに、生物学の研究が進んだことで神聖視された動物の種類が特定された神にはアヌビス神もいる。
彼の神聖動物はかつてはジャッカルとされていたのだが、調べてみたらアフリカにいるキンイロジャッカルっぽい動物は、ジャッカルではなくオオカミだった、と判明したのである。
なので、神聖視されたのは「アフリカキンイロオオカミ」か、その亜種とされる「エジプトオオカミ」、になる。

アヌビス神のモデルはキンイロジャッカルでは無かった…そもそもアフリカにいるのはキンイロジャッカルではなかった件
https://55096962.seesaa.net/article/202012article_20.html

DNA解析技術が上がるとこういうところからも既存知識に訂正が入っていくので、なかなかおもしろいもんです。