大スキャンダル「エプスタイン文書」、カルト宗教や集団心理学の実験資料でもあるのでは…?

いま欧米を騒がせている「エプスタイン文書」、あまりにエログロすぎるのか、日本人の関与が少ないからなのか、ニュースに出てくることは少ない気がするが、世界的にわりと大きな問題になっている。というか主にイギリスとアメリカがフィーバーしている。

検索すればいくらでも記事は出てくるだろうが、この事件は、アメリカの大富豪ジェフリー・エプスティーン(エプスタイン)氏が、自身の所有する島の豪邸で少女買春、児童虐待、誘拐してきた女性たちへの性的暴行などやりたい放題をやり、著名人も招待して乱交パーティーを行っていた、というものである。
2019年に起訴はされたものの勾留中に「自殺」。しかし真相が闇に葬られることはなく、押収された証拠文書やメールのやり取りが公開され、政界・財界・王族など大物を巻き込む大スキャンダルに発展している、というのが現状である。

英国王族のアンドリュー元王子が王子の称号を剥奪されたのも、それ関連。

日本のマンガやアニメのエログロを批判していた人たちの一部が実は「現実で」それをやる/見る側だった、つまり創作を創作ではなくリアルと認識していた可能性がある、という、あまり笑えない答え合わせも出てきて、うーん…という感じ。
虐待シーンを写真やビデオに残していたり、あまりにもグロい証言が記録されていたりして、正直この文書をまじめに読むことはオススメしない。

ただ私は、この事件に関わった人たちの多さと、行為の残虐さが、どうにも現実離れしていると思った。
富と権力を手に入れた人間が行き着く先が酒池肉林、というのは、あまりにも安っぽいドラマすぎる。スキャンダルとかゴシップとしては、あまり興味を惹くものではない。

それよりも気になったのは、加害者側の心理。特に犯罪の行われた環境がカルト宗教のイニシエーション(入信儀式)に似ているという点である。

①「エプスタイン氏の所有する島」という密閉された空間
②豪邸やパーティーといった非日常的なシチュエーションの演出
③パーティーに出席する他メンバーはすべて社会的に成功した著名人であり、同じエリート階層という連帯感がある

この①~③はカルト宗教でほぼ必ず踏襲される前提条件である。
そして、この環境で流されるままにタブーを犯した場合、それを秘密にするために集団により深くコミットメントすることになる。つまりは繰り返しタブーを犯し、仲間を引き込み、少しずつエスカレートしていく段階に入る。


社会心理学を学んだ身からすると、エプスタイン氏は単なる性犯罪者というよりは、上流階級だけをターゲットとした「ニッチなカルト宗教の教祖」に見えるのだ。


そして、閉鎖された島という環境での「加害者」と「被害者」という立ち回りも、実験室で行われる心理学実験を思い起こさせる。
具体的には、有名な「スタンフォード監獄実験」とか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E7%9B%A3%E7%8D%84%E5%AE%9F%E9%A8%93

これは、一般から公募された被験者を「囚人」と「看守」に振り分け、監獄シチュエーションでそれぞれの役割を演じるという実験なのだが、演じているはずが、看守の側が次第に残虐になっていき、平然と囚人役の人たちを痛めつけるようになっていった、という実験である。

この実験の他にも類似の実験は幾つかあるが、罰則を与える側が次第に残虐になっていく、という結果になっているものが多い。果たしてそんなもん実験していいのか、という倫理的な問題や、必ずしも場に流される人ばかりではない、という批判はあるものの、人間はその場の雰囲気や与えられた役割に流されやすいことは実証された定説と言っていいだろう。

つまりは、エプスタイン事件に関わった加害者たちは、パーティーのお誘いにつられてホイホイ島に出かけていった時点で詰んでいたのではないか。
人間の自由意志や倫理観というものは、人自身が思うよりも脆いものである。
「赤信号 みんなで渡れば怖くない」という言い回しもある。赤信号を渡るのは悪いことだと知っていても、皆が渡っていれば、「いまは車が来てないから構わないだろう」「今日は急いでいるから仕方がない」などと後付の言い訳をして、ルールを無視してしまう人も多いだろう。

そして、それが信号無視くらいの軽微なルール違反なら言い訳も罪悪感も最小限で済むだろうが、もしも性犯罪や暴力のような大きな倫理違反だったら…?

多くの人は、そんな時、素直に過ちを認めて自らのキャリアを捨てるような真似はしない。
苦労して大きな言い訳を作り出すか、他の人も同じ失敗に引き込むことで自らの失敗の埋め合わせをしようとするか。つまりは、エプスタイン文書に出てくる人たちと同じような行動を取る。



実際の被害者がいる以上、軽々しく「一級の心理学実験資料だね」とかは言えないし、興味本位で研究したいとも思わないが、この事件を分析するのなら、カルト宗教とか集団心理学の視点から切り込むべきだと思う。でないと、なぜこんな事件が起きたのか、なぜこれほど多くの人が関わっているのかが分からないと思う。

加害者も、被害者も人間である。当然エプスタイン氏も、肩書や名誉を剥がせば、ただの一人の人間である。「特別に」残虐で、「特別に」おかしい、自分とは「違う」存在ではない。
我々自身の中にも、条件さえ整えば同じことをやらかす「何か」が潜んでいるかもしれない。

…というか、その「何か」を現実で発露させずに創作でやってるのが日本人だと思ってるので、現実でやる奴が遅れてるんだよなあ…。
いやマジで現実でやるなよ。創作でやれ。