そういや神祀ってないから神殿じゃなかった。「カアバ聖殿」

日本だと「カアバ神殿」という表記も多いが、神を祀ってるわけじゃないから「カアバ聖殿」のほうが正しいらしい。
そんで、当たり前だが何度も建て直しをされてきているらしい…
という話が出てくる本を読んだ。あの黒い四角は見慣れているけど、由来とかこれまでの歴史とかを「イスラーム視点」から読んだのは、これがはじめてかもしれない。

イスラームの原点―カアバ聖殿 (イスラーム信仰叢書) - 水谷 周
イスラームの原点―カアバ聖殿 (イスラーム信仰叢書) - 水谷 周

Kaaba_Masjid_Haraam_Makkah.jpg

そう、この本、なんといっても「イスラーム視点」として書かれているのが面白い。
なんとカアバ聖殿を最初に建てたのはアダムってことになっているのである。あの! 人類の始祖! まあ考えてみれば確かにそう、アッラー=一神教の全知全能の神、ユダヤ教やキリスト教の神と同じと主張している なので、アダムを作ったあの神も、ヤハウェと名乗るアッラーなのである。

そしてアダムが建てた最初の聖殿はノアの大洪水の時に流された、あるいは避難させられたことになっており、つまりは人類の最初から、旧約聖書の神話の時代を通してずっとあり続けたことになっているのだ。
(先行宗教との整合性取るの大変だっただろうな…)

由緒正しき聖所なので、建て替えの時にもすったもんだした記録があるらしい。
たとえばメッカに聖殿が建てられて1000年ほど経った1630年の冬、異常気象で大量の雹が降り、メッカ全体が水没した時にカアバが多大な被害を受けたためはじめての全面建て替えとなったというのだが、聖殿を壊すことに祟りがないか恐れる信者は街から避難したという。
また、壁から取り外した黒石を誰が運ぶかでモメたり、どう建設するかのやり取りなどで時間を要したりと、けっこう細かい記録が残っている。

ちなみに、その際に黒石が壁から外されて、「人目に触れてこなかった裏側はまだ白かった」という記録が残っているらしい。
知らなかったのだが、黒石は実は過去に色々あって13個に割れてしまっており、現在の、壁にはめ込まれている姿は、それを樹脂などで一つにつなぎ合わせた形だという。黒い色も長年の手垢や、たびかさなる修復で塗りつけられた樹脂・割れた部分を固めるために使われた素材などによるもので、本来の色ではないそうな。

黒石の正体は隕石とも言われるが、白っぽい隕石だとすると鉄分多めのやつかな…。というか「黒」石じゃないんじゃん? とは、ちょっと思った。
というか見た目が丸いと思っていたが、あれは丸い銀の輪に嵌め込んで保護してあるから丸いだけで、本当の形も丸くはないのだ。そして、何度も砕かれたり破損したり(一度は火災でも割れたらしい)したものをつなぎ合わせたのなら、最初の形も分からない…。

まあ、それはそれとして、イスラームの神話上では、この黒石もアダムの時代に天国からもたらされたことになっているという。
なのでノアの洪水の時に黒石が沈んだのか、ノアの方舟に乗ってたのかは議論になったりするらしい。意外な視点。でも確かに神話の整合性を取ろうとすればそこの答えは必要だよね。

さらに、メッカ(マッカ)は世界の中心であるという考え方があり、アッラーによる天地創造はメッカから始まったことにされている。
その神話的概念を科学的に説明するために、かつて大陸が一つだった時代、メッカの部分から大陸が割れていまのように世界中に散らばった、という現代的な神話さえあるらしい。
日本神話の「おのころ島」のエピソードにちょっと似ているのが面白い。これをまともに論じてしまうとオカルト寄りになってしまうだろうが、あくまで神話にしておくなら斬新と言ってもいい。というか進化論さえ認めないキリスト教福音派よりは科学的でさえある。ある意味で。


という感じで色々、イスラーム視点からの切り口を楽しめた。

イスラームは、もともと一神教の広がっていた土壌で神話と一神教要素を換骨奪胎して発生したものだ。飲食店によくある「居抜き」で理解するとわかりやすい。

イスラームはムハンマドを最後の預言者としてそれまでの宗教を統合している。その中でもメッカはイスラーム特有の聖地であり、キリスト教やユダヤ教にとって特別ではない。(逆に、エルサレムは3つの宗教すべてで重要視される)
そのイスラーム特有の聖地を、居抜きしたユダヤ教、キリスト教の神話にどう当てはめるのか。という答えが、この本で述べられていた話なのだ。

メッカにはかつて多神教の時代があり、アッラーの他にアルウッザーやアッラート、マナート、ザート・アンワートなどの神が祀られていた、とされるが、アダムやノアなど神話的な人物の時代を除けば、おそらくこれが一番最初のメッカの姿だろう。
ウッザーやアッラートは、かつてアッラーの妻や娘とされていた女神たちだし、他の神名も古代の南アラビアで信仰されていたことが分かっている神々だ。

つまりはメッカは共同の聖地で、金持ちで力のある部族が聖地で聖殿を更新する権利を取っていたのだろう。
そしておそらくは各部族/社会階級で重要視する神が異なっていた中から、アッラーを信仰する部族/階級のムハンマドが、他の神々への信仰を排除する方向に動き出して成功した。

その時点で、一神教プラットホームに相乗りするために、かつての多神教時代の神話を捨てて、新しく旧約聖書との整合性を取った神話を作り出したんだろうなと…。
黒石とかメッカって旧約聖書には出てこないから、「無い」ところから組み込むのは苦労の痕が見られるけれど…。


(ちなみに、これを言うとイスラム教徒からは怒られるだろうが、多神教時代の御神体は「岩」「木」「泉」などだったとされる。つまりカアバ聖殿にいまも「黒石」「ザムザムの泉」などアッラーと直接関係なさそうなものが残っているのは、多神教時代のアッラーの御神体が石だった、他の神の御神体だった泉をどかすわけにいかないから別の由来をつけてイスラームに組み込んだ、などの経緯が考えられる。

イスラム教徒は「多神教時代に"誤って"他の神の御神体にされていた」と解釈すればよく、他宗教の私などから見れば「多神教の痕跡をすべて一神教に合祀した結果、多種多様な来歴が発生した」と理解できる)


****
あと、オマケ

一神教の神は全部同じ、という建前と信者の現実。「ヤハウェ≒アッラー」
https://55096962.seesaa.net/article/500425347.html

一神教の神は全部一緒、というのはタテマエ。ユダヤ教とイスラム教は同根なんですが、イスラム教だけは別。
また、アッラーはキリストの父とは考えられていない。というか「一神教なのによくわからんイエスとかいう奴崇め始めたのがおかしい」って言うのがイスラム教徒。