古代のキュレネで取り引きされた万能草「シルピオン」、現代で言う「冬虫夏草」なのでは。絶滅危機の「万能薬」について

キュレネは現代のリビアに位置し、プトレマイオス朝エジプトの果てにあたる都市。プトレマイオス3世と結婚した女王ベレニケは、この都市国家出身。
このキュレネが栄えていた時代、都市ではシルピオン(ラテン語ではシルピウム)という万能薬になるという薬草が取り引きされていた。
しかし、あまりにも乱獲しすぎたため、シルピオンは絶滅。紀元前後のこととされる。最後の貴重な一本は、ローマのネロ帝に献上されたという。
人為的な種の絶滅記録の最古のものと言われる所以である。

さて、このシルピオン、絵は残っているものの実物が無いため具体的にどの種だったのかは分かっていない。正体にも諸説あって良くわからない。
ただ、絵や薬効からして、ジャイアントフェンネル(オオウイキョウ)の近似種だろうとは言われている。
まあ、万能薬というほどの薬効は実際には無く、ブランドイメージで売ってた植物なのだろうとは思う。

オオウイキョウ自体は珍しい植物ではなく、現代にもたくさん生えているので、もしこれが本当にシルピオンの正体だったのなら、キュレネ近郊の近似種のみがブランド品として扱われていたのだろう。そして、キュレネ近郊の気候と土壌にのみ適していた亜種ゆえに、採取圧によってあっさり絶滅してしまったのではないだろうか。

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さて、実は現代にも、シルピオンによく似たポジションの「万能薬」を謳われるものがある。
正確には植物というより菌類なのだが、「冬虫夏草」である。

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共通点は以下である。

・サナギダケ/セミタケ自体は珍しいものではなく、周辺国(日本にも)に何種類か存在するが、冬虫夏草としてブランド化されているのはいわゆる「チベット冬虫夏草」、「コルディセプス・シネンシス」のみ
・そのブランド化されたものはチベット高原など限られた場所にしか生息しない
・万能薬扱い
・乱獲により絶滅に瀕している
・必要とするのはほぼ中国のみ、他の国ではメジャーな薬ではない
・既に絶滅していた場合、おそらく実物が残っていないと正体が分からない

中国の古い記録では「虫から生える草」「冬は虫で、夏は草になる」と書かれているので、「たぶん日本にもよくあるセミタケの仲間だろうな…」までは特定出来るだろうが、チベット高原にあった種類が果たしてどのくらい近似種なのか、本当にセミタケでいいのかどうか判別は難しいと思う。そして、実物がまだあるからこそ万能薬というほどの成分ではないことが分かるけれど、実物が残っていない場合は、実際の薬効までは分析出来ない。

シルピオンがいま置かれている状況が、まさにここなのだ。だいたいの種類と薬効の見当はつくものの、そうだといい切れるだけの証拠がない。


このままいくと乱獲と気候変動でチベットの冬虫夏草は絶滅するか、ほとんど採取出来ないくらい珍しい存在になってしまいそうなのだが、シルピオンと同じように最後の一本まで取り尽くすような事態にはならないで欲しいなと思うのだ。