インドの仏像に仏教っぽくないものが混じっているのは何故なのか「ガンダーラ仏教美術の謎」
ガンダーラというと「♪ガンダーラ ガンダーラ 愛の国ガンダーラ♪」の曲で覚えているのは私も同じだが、人文学的に言うとガンダーラは「仏像の故郷」とされる。
グレコ・バクトリア、つまりギリシャ文化が現地文化と混じりあっていた時代があり、ギリシャ様式の彫刻が仏教に取り入れられて仏像というものが誕生する。仏像の源流はギリシャ、そしてギリシャ文化を受け継いだローマの影響を受けている。ヘラクレスの像などは、そのまんま悪鬼を調伏する仏の像に変化した。
が、その中に、明らかに仏教的ではないクピド(キューピッド)や、デュオニュソスを中心とした男女の性愛を描くものが入っている。
仏教といえば禁欲なのに、なんでこんなエロティックなものが仏教寺院にあったのか? …というのが、この本の言う「謎」である。
著者がガンダーラ美術はマイナーなものと認識しているためか、本の前半は「ガンダーラとは何か」「ガンダーラの歴史とは」「仏像はどのような影響を受けてきたのか」といった基礎的な説明ばかりで、なかなかおもしろいところに入っていかない。ていうか、大学の講義を受けているみたいな気分になってくる 笑。
が、まあ、まあ、このジャンルを何も知らない人にはフレンドリーな構成かもしれない。

ガンダーラ仏教美術の謎~シルクロードが生んだ仏像と「愛の楽園」~ (光文社新書) - 田辺 理
で、肝心の謎解き、「なんで仏教っぽくない像が作られたのか」なのだが、仏教における「欲天」の最高層、六欲天の楽園を現しているのだという。
本来仏教は悟ったら「上がり」、輪廻からも外れて高みに位置することが出来るのだが、一般人は悟るとかムリなので、一般の在家信者は行ける最高の層として六欲天が設定されていたらしい。そこは楽園であり、美しい木々や果実が実っているし、天女と交わって天上の快楽を享受することも禁じられていないらしい。
で、デュオニュソスの競演のシーンをそこに当てはめて仏教的な概念に流用したというわけだ。
それアリなん…? と思いたいところだが、どこの宗教でも「天国」の概念はけっこうあるものだし、一般衆生にウケるのも死後の楽園である。最初から「悟り」などという限られた人しか達成できない目標を掲げていては、信仰が広まらない。
キリスト教の境界美術に天国と地獄のモチーフが多いように、仏教美術の中にもムチムチプリンな天女との交歓や極楽浄土が地獄の対比として表現されるのは当然と言える。万国共通、一般信徒にわかりやすく宗教を説明して受け入れてもらえる筋書きだからだ。
内容はそれなりに面白かったのだが、この本の不親切なところは、ギリシャやローマの像と、インド周辺で出土した像を比較する時に、出土地や収蔵博物館しか書いていないところである。
ギリシャ・ローマ様式の像がガンダーラで出土するということは、明らかにギリシャ様式であってもギリシャの美術ではない、仏教に取り入れらた初期段階の「仏像」ということもあり得るからだ。
面倒でも全ての像には所属文化と意味するところのキャプションはつけるべきだったと思う。
「イルカと櫂を持つトリトーン」がナポリ博物館所蔵なので多分ローマで、つぎのページにある「イルカを担ぐトリトーン」は螺髪なので多分ガンダーラ美術なんだな、みたいな区別を、読者が本文と照らし合わせながら読むのは面倒くさすぎる…。
******
関連する過去の記事は以下。
けっこう日本でもガンダーラ美術推しのイベントはあるんで、考古学に興味ある人とか、仏像マニア勢は知ってるんじゃないかなあ…。特に仏教美術・仏像は一大クラスタを形成していてファン層も厚いはず。
思索の旅インド編 ローマからガンダーラへ至る道。
https://55096962.seesaa.net/article/201502article_21.html
古代オリエント博物館、開館40周年記念特別展&記念講演会に行ってきた。
https://55096962.seesaa.net/article/201810article_8.html
ヘレニズムの本当の立役者はローマだった「アレクサンドロスの征服と神話」
https://55096962.seesaa.net/article/201707article_2.html
グレコ・バクトリア、つまりギリシャ文化が現地文化と混じりあっていた時代があり、ギリシャ様式の彫刻が仏教に取り入れられて仏像というものが誕生する。仏像の源流はギリシャ、そしてギリシャ文化を受け継いだローマの影響を受けている。ヘラクレスの像などは、そのまんま悪鬼を調伏する仏の像に変化した。
が、その中に、明らかに仏教的ではないクピド(キューピッド)や、デュオニュソスを中心とした男女の性愛を描くものが入っている。
仏教といえば禁欲なのに、なんでこんなエロティックなものが仏教寺院にあったのか? …というのが、この本の言う「謎」である。
著者がガンダーラ美術はマイナーなものと認識しているためか、本の前半は「ガンダーラとは何か」「ガンダーラの歴史とは」「仏像はどのような影響を受けてきたのか」といった基礎的な説明ばかりで、なかなかおもしろいところに入っていかない。ていうか、大学の講義を受けているみたいな気分になってくる 笑。
が、まあ、まあ、このジャンルを何も知らない人にはフレンドリーな構成かもしれない。

ガンダーラ仏教美術の謎~シルクロードが生んだ仏像と「愛の楽園」~ (光文社新書) - 田辺 理
で、肝心の謎解き、「なんで仏教っぽくない像が作られたのか」なのだが、仏教における「欲天」の最高層、六欲天の楽園を現しているのだという。
本来仏教は悟ったら「上がり」、輪廻からも外れて高みに位置することが出来るのだが、一般人は悟るとかムリなので、一般の在家信者は行ける最高の層として六欲天が設定されていたらしい。そこは楽園であり、美しい木々や果実が実っているし、天女と交わって天上の快楽を享受することも禁じられていないらしい。
で、デュオニュソスの競演のシーンをそこに当てはめて仏教的な概念に流用したというわけだ。
それアリなん…? と思いたいところだが、どこの宗教でも「天国」の概念はけっこうあるものだし、一般衆生にウケるのも死後の楽園である。最初から「悟り」などという限られた人しか達成できない目標を掲げていては、信仰が広まらない。
キリスト教の境界美術に天国と地獄のモチーフが多いように、仏教美術の中にもムチムチプリンな天女との交歓や極楽浄土が地獄の対比として表現されるのは当然と言える。万国共通、一般信徒にわかりやすく宗教を説明して受け入れてもらえる筋書きだからだ。
内容はそれなりに面白かったのだが、この本の不親切なところは、ギリシャやローマの像と、インド周辺で出土した像を比較する時に、出土地や収蔵博物館しか書いていないところである。
ギリシャ・ローマ様式の像がガンダーラで出土するということは、明らかにギリシャ様式であってもギリシャの美術ではない、仏教に取り入れらた初期段階の「仏像」ということもあり得るからだ。
面倒でも全ての像には所属文化と意味するところのキャプションはつけるべきだったと思う。
「イルカと櫂を持つトリトーン」がナポリ博物館所蔵なので多分ローマで、つぎのページにある「イルカを担ぐトリトーン」は螺髪なので多分ガンダーラ美術なんだな、みたいな区別を、読者が本文と照らし合わせながら読むのは面倒くさすぎる…。
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関連する過去の記事は以下。
けっこう日本でもガンダーラ美術推しのイベントはあるんで、考古学に興味ある人とか、仏像マニア勢は知ってるんじゃないかなあ…。特に仏教美術・仏像は一大クラスタを形成していてファン層も厚いはず。
思索の旅インド編 ローマからガンダーラへ至る道。
https://55096962.seesaa.net/article/201502article_21.html
古代オリエント博物館、開館40周年記念特別展&記念講演会に行ってきた。
https://55096962.seesaa.net/article/201810article_8.html
ヘレニズムの本当の立役者はローマだった「アレクサンドロスの征服と神話」
https://55096962.seesaa.net/article/201707article_2.html