古代人もレバノン杉で花粉症になっていたか。→そいつ和名は「杉」だけど実際は「松」だよ

レバノン杉だって花粉症を起こしていたに違いない…フンババは花粉症の化身…! みたいなのはSNSの軽いネタとしてはいいかもしれないけど、それフンババの前で言っちゃだめだぞ。ああ見えて繊細なんで傷つくからな。

という話はさておいて、このジョークを見かけた時に、「ああ、レバノン杉って名前だからみんな杉だと思ってるんだな…」と今更のように気がついた。
和名で「スギ」ってつけられちゃったから誤解されてるんですけど、レバノン杉はマツ科で、見た目もモロに松です。
松ぼっくりがなるし、マツタケに似たキノコも生えるんですよ実は。

というわけで、とりあえず写真とか。

Cedrus libani
https://conifersociety.org/conifers/cedrus-libani

lwsgyy.png

lwbsqf.png

レバノン杉
https://wood.jp/8-jumoku/wood/m502.htm

wtyuyu.png

※スギはヒノキ科


マツも風媒花なので、花粉は飛散する。その意味では花粉症の原因、アレルゲンには当てはまる。
ただ、マツは一般的にスギより花粉の飛散量が少なく、花粉症の原因になりにくいと言われている。実際、日本でもマツの花粉症の人はほとんど聞いたことがない。多くの人はスギだろう。

そして、花粉症は、ごく最近の病だ。
日本で報告されたのはブタクサ花粉症が1961年、スギ花粉症が1963年が初めてだという。まだ一般的になって100年も経っていない、ド新参の現代病なのである。

スギ花粉症については、戦後の復興で大量に植林したのが花粉症発症の原因の一つとされる。また、その花粉が空気中のチリや化学物質と合体して汚染されたものが体内に入ることによって、免疫機能がおかしくなることが原因ではないかという説もあるらしい。

これについて、「アレルギーと理解されたのが現代なだけで、古代からスギ花粉アレルギーの人はいたに違いない」とクレームをつけてくる人がいたのだが、「いたに違いない」は思い込みであり、それならソースを出せという話である。
もしかしたら居たかもしれない、居なかった証明をすることは出来ない。だが、「いた」「現代のようにポピュラーな病気だった」のなら、古代の医療パピルスなり、他の古文書なり、なにかソースが残っているのではないだろうか。それが示せないなら「存在しなかった」「珍しかった」と解釈すべきだろう。(いわゆる「悪魔の証明」、歴史学のお約束でもある)

そもそも一種類のみの植物が、大量に、狭い範囲に長期間存在するという状態は、自然環境ではほぼ発生しない。人間が人工的に作り上げた環境だからこそ、スギばっかりびっしり植えられた山肌、のような風景になる。

古代のレバノン杉の森は自然に出来た森なのだから、現代の人工林のように「レバノン杉オンリー」な状態ではなかったはずだ。
もともとスギより花粉の少ないマツな上に、その花粉は化学物質に汚染されてもおらず、人工的に植林された環境ほど密度も高くなかったのであれば、古代人がレバノン杉起因の花粉症を患った可能性は限りなく低い。フンババと花粉症が関係しているというのは濡れ衣だろう。

付け加えておくならば、フンババはエンリルが作った「香柏の森の番人」であり、レバノン杉の生える森を守護する存在ではあるが、レバノン杉そのものの精とか化身とかではない。レバノン杉に手を出さなきゃ森に入るのはOK、とかそういうわけでもなく、六十ベール(つまりはめっちゃ遠くからでも)の距離から森のざわめきを聞きつけ、森に入ってくるものを排除するとされる。

なので実際の図像でも、わざわざ恐怖を与えるべく怖い顔面にされ、物理で人間殴ってくるタイプのパワーキャラとして描かれている。
花粉症みたいな特殊攻撃してくるタイプではないんですよね…。

bes2.jpg

*イチオシ和訳はこれ! 他にも何種類かあるから読もう!
ギルガメシュ叙事詩 - 月本 昭男
ギルガメシュ叙事詩 - 月本 昭男


*******

おまけの雑学として、レバノン杉は現在レバノンでは絶滅に瀕していてほとんど残っていないのですが、地中海挟んだお向かいのトルコ南岸にはわりと広い範囲で森が残っています。
レバノンの象徴で国旗にもなっているのに、いまやトルコのほうが数が多いんですよね…。

なので、レバノンから消えそうといっても、全世界から消えるわけではないです。
ちなみに日本にも日比谷公園などに生えていたりするそうです。