この10年の差分を振り返る本「イスラームと文化財」

適当に図書館で読むもの探して掘り出してきた本。「イスラム教徒は他宗教に不寛容で文化財を破壊するイメージがある、だが実際はどうなのか」というのを各国の状況とともに記載した内容になっている。
とはいえ最近出たものではなく、本が出たのが10年前なので、自分的には、最新の情報を得るというよりは、この10年を振り返るというか、本に書かれた10年前の状況と現在との差分を考えてみる位置づけの本になっていた。

イスラームと文化財 - 野口 淳, 安倍 雅史
イスラームと文化財 - 野口 淳, 安倍 雅史

まず最初にISによる破壊行為からスタートするのは、本の出た時代を繁栄してのことだ。ハトラ遺跡の略奪も、パルミラの破壊も、バーミヤンの大仏爆破も、既に昔の出来事になっている。おそらく、既に知らない世代も出ているだろう。
↓これが行われていた時代に出た本だ、ということを念頭に置くと、本の中で繰り返し「イスラム教徒だから破壊に走るわけではない。イスラームが暴力的なわけではない」と述べられている理由もわかるかと思う。

ISに破壊された古代遺跡の数々 イラク古代都市
https://www.bbc.com/japanese/37996280

翻って、この本が出てから10年。この10年で何が変わったのか。何が起こり、何が以前され、何が悪化したのか。
本の中で取り上げられている国は多く、アジアから北アフリカまで広がっている。確実に悪化したと言えるのはミャンマーそしてイスラームとは別に。ヒンドゥー主義によって悪化しているのがインド。中東はイランが現在進行形で悪化中。アフガニスタンもタリバーン復権で怪しい。
こうしてみると、あまり改善されているところは無く、むしろ悪化してるところが多いような…ともなってしまう。

ISの脅威は低減されたが、復興は遅々として進んでいない。シリアは政権交代後の国の建て直しがどうなってるのか見えないし、レバノンはISが去ってイスラエルという蛮族が攻撃をしかけてきているので色々と…。

厄介なのはイスラームによる仏教遺跡の破壊、とかいう単純な宗教対立の構図ではなく、インドやパキスタンにあるように、仏教遺跡ただけどいま住んでるのもこれまで守ってきたのもイスラム教徒の地元民、昔からあるものなので別に害する来はないんだけど積極的に保護してるわけでもないので結果的に破壊してしまうこともある。とか、世界遺産にしていされるとそこに住んでる地元民の生活が不便になるので積極的な保護には反対している。のようなケースだろう。(これは遺跡の上に住んじゃってるペルーや、畑の中に遺跡があるエジプトでも起こっていた問題)

積極的な保護と、移籍文化財とともに暮らすということが相容れない場合にもどちを優先すべきなのか、どう折り合いをつけていくのかは、世界中で普遍的な命題だろうと思う。

本を書いてるのが実際に発掘に携わってきた人たちなので、上から目線の机上の空論ではない実情が読めて面白かった。文化財関連に興味のある人なら一通り読んでおいてもいいと思う。