「ヨーロッパの古代民はペストで壊滅した」ヤムナヤ文化との入れ替わりが病原菌起因という説について調べてみた
適当に流し読みしていた本に、「ヨーロッパの古代民はペストで壊滅した」、「ヤムナヤ文化との入れ替わりはそれが原因かもしれない」という説が出てきて、なんだこりゃと思って出どころを調べてみた。
発端は2018年に出た↓このあたりの研究らしい。
Ancient DNA reveals possible cause of mysterious population collapse 5,000 years ago, scientists say
https://edition.cnn.com/2024/07/10/science/plague-ancient-dna-europe-first-farmers
Did a new form of plague destroy Europe's Stone Age societies?
https://www.science.org/content/article/did-new-form-plague-destroy-europe-s-stone-age-societies
ヨーロッパ全般で5,300年前から4,900年前の間に人口が激減する謎のイベントが発生し、新石器時代の初期農民の集落が軒並み消滅している。出土する人骨の遺伝的な傾向も前後で大きく変化していることから、人の入れ替わりに等しい何かが起きたと想定されている。
ただし戦争など紛争のあとが見られない。気候変動による人の大量移住や、農業に大打撃を食らったことによる人口減かもしれないが、はっきりしていなかった。
そこに、以下のような新しい知見が加わった。
・5.000年前の人骨からペスト菌が発見されている
・ヨーロッパで見つかっている人骨の調査の結果、予想されていたよりペスト罹患率が高い
・入れ替わるのは東方から移住してきたヤムナヤ文化に属する人たち
・東方ではもっと古くからペスト菌が発見されている
→ここから、「移住者がペストを運んできたのでは? 」という推測へと繋がる
という流れである。
ヤムナヤ文化については、少し前まで「ウマを家畜化した人々」という扱いだった。紀元前4,000年~3,500年ごろの、デレイフカ遺跡、もしくはボタイ遺跡で出土したウマの骨が、家畜化された最初のウマだとされてきたのだ。
そして、ヨーロッパにヤムナヤ文化が一挙に流入して人が入れ替わったのは、彼らが「ウマと車輪」の力で拡散したからだとも説明されてきた。
しかし、この説は、人類の起源や人口の入りかわりを明らかにしたのと同じDNA解析技術によって否定された。
ウマが家畜化されたのはそれよりずっとあと、紀元前2,200年頃という結論が出たからだ。デレイフカやボタイ遺跡で出土したウマは、DNAから野生ウマと判明した。
これは、メソポタミアやエジプトの考古学資料とも一致する年代だ。
紀元前4,000年に既にウマが家畜化されていたのなら、シュメールの人々が使わなかったはずはない。なのに実際は、オナガー(あるいはロバ)に引かせた荷車しかなく、車年もスポークつきのスピードの出るものではなく丸く削っただけの板である。
エジプトでも、ウマと戦車が入ってくるのは紀元前1,500年ごろ。これは紀元前2,200年頃から家畜として広まり始めたなら遅すぎることはないが、紀元前4,000年では何故2,500年もスルーされていたのかの説明がつかない。
なので、ヤムナヤ文化が拡散した理由は、「ウマと車輪」ではなく別に求めなければならなくなった。
その別の理由候補の一つが、「ペストによる人口減」なのだろう。
ただ、自分はこの説はちょっと脇が甘いと思っている。
ヤムナヤ文化の人々はヨーロッパより早くペストに触れていたので抵抗力を持っていた、という理由をつけていたが、ペストが流行ったらヤムナヤ文化の人たちだって大量死するのだから、そもそも移住するほど人が増えないだろう。
また、ペストは、一度かかっても生涯免疫は得られない。だいたい10年くらいで再感染するとされ、黒死病の流行が定期的に発生した原因もそこにある。
つまり「先に感染してたから免疫持ってただろう」は言えない。紀元前5,000年のヨーロッパの人口減の原因が本当にペストなら、そもそも人の置き換えは起こらず、流行地域全般で人が減るだけだろう。たとえそこに新たな移住民が来たとしても、移住民もペストにかかって倒れるだけだ。
なので眉唾とは思うが、この説を採用している本が今後出てくる可能性もあるので、検索に引っかかるように嫌疑をここに書いておく。
ヨーロッパの初期農民の人口が減少した原因については、従来通り気候悪化に求めるほうがまだ無難だろうし、「ウマと車輪」以外でヤムナヤ文化の人々が拡散する理由は別に探したほうがいいと思う。
*****
・参考までに、いままでのペストに関する記事
現時点で最古のペストの証拠を発見、3,800年前 ※これが2018年時点で話題となった研究
https://55096962.seesaa.net/article/201806article_14.html
スウェーデンで最古のペスト菌の痕跡発見、起源地と拡散の既存説に矛盾 ※上記とほぼ同時期の研究
https://55096962.seesaa.net/article/201812article_10.html
古代のペスト菌はそんなに凶悪じゃなかった。という説が強化される ※これがあるので、古代人の感染率と致死率がリンクしない可能性あり
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_3.html
「紀元前2000年にブリテン島に住む人が90%入れ替わった」説の問題点を記載しておく。 ※この時点でもペスト説はあった
https://55096962.seesaa.net/article/201902article_12.html
エジプトから始まった古代のペスト・パンデミック、「ユスティニアヌスのペスト」の菌がヨルダンで分離される ※これは大規模に流行するようになった時代のペスト
https://55096962.seesaa.net/article/517815502.html
・あと、ヤムナヤ文化と「ウマと車輪」の旧説が読みたい人は以下の本に概要が載っている
本が出て数年なのにもう書き換え必要な箇所があるという現実、「人類の起源」
https://55096962.seesaa.net/article/505777485.html
発端は2018年に出た↓このあたりの研究らしい。
Ancient DNA reveals possible cause of mysterious population collapse 5,000 years ago, scientists say
https://edition.cnn.com/2024/07/10/science/plague-ancient-dna-europe-first-farmers
Did a new form of plague destroy Europe's Stone Age societies?
https://www.science.org/content/article/did-new-form-plague-destroy-europe-s-stone-age-societies
ヨーロッパ全般で5,300年前から4,900年前の間に人口が激減する謎のイベントが発生し、新石器時代の初期農民の集落が軒並み消滅している。出土する人骨の遺伝的な傾向も前後で大きく変化していることから、人の入れ替わりに等しい何かが起きたと想定されている。
ただし戦争など紛争のあとが見られない。気候変動による人の大量移住や、農業に大打撃を食らったことによる人口減かもしれないが、はっきりしていなかった。
そこに、以下のような新しい知見が加わった。
・5.000年前の人骨からペスト菌が発見されている
・ヨーロッパで見つかっている人骨の調査の結果、予想されていたよりペスト罹患率が高い
・入れ替わるのは東方から移住してきたヤムナヤ文化に属する人たち
・東方ではもっと古くからペスト菌が発見されている
→ここから、「移住者がペストを運んできたのでは? 」という推測へと繋がる
という流れである。
ヤムナヤ文化については、少し前まで「ウマを家畜化した人々」という扱いだった。紀元前4,000年~3,500年ごろの、デレイフカ遺跡、もしくはボタイ遺跡で出土したウマの骨が、家畜化された最初のウマだとされてきたのだ。
そして、ヨーロッパにヤムナヤ文化が一挙に流入して人が入れ替わったのは、彼らが「ウマと車輪」の力で拡散したからだとも説明されてきた。
しかし、この説は、人類の起源や人口の入りかわりを明らかにしたのと同じDNA解析技術によって否定された。
ウマが家畜化されたのはそれよりずっとあと、紀元前2,200年頃という結論が出たからだ。デレイフカやボタイ遺跡で出土したウマは、DNAから野生ウマと判明した。
これは、メソポタミアやエジプトの考古学資料とも一致する年代だ。
紀元前4,000年に既にウマが家畜化されていたのなら、シュメールの人々が使わなかったはずはない。なのに実際は、オナガー(あるいはロバ)に引かせた荷車しかなく、車年もスポークつきのスピードの出るものではなく丸く削っただけの板である。
エジプトでも、ウマと戦車が入ってくるのは紀元前1,500年ごろ。これは紀元前2,200年頃から家畜として広まり始めたなら遅すぎることはないが、紀元前4,000年では何故2,500年もスルーされていたのかの説明がつかない。
なので、ヤムナヤ文化が拡散した理由は、「ウマと車輪」ではなく別に求めなければならなくなった。
その別の理由候補の一つが、「ペストによる人口減」なのだろう。
ただ、自分はこの説はちょっと脇が甘いと思っている。
ヤムナヤ文化の人々はヨーロッパより早くペストに触れていたので抵抗力を持っていた、という理由をつけていたが、ペストが流行ったらヤムナヤ文化の人たちだって大量死するのだから、そもそも移住するほど人が増えないだろう。
また、ペストは、一度かかっても生涯免疫は得られない。だいたい10年くらいで再感染するとされ、黒死病の流行が定期的に発生した原因もそこにある。
つまり「先に感染してたから免疫持ってただろう」は言えない。紀元前5,000年のヨーロッパの人口減の原因が本当にペストなら、そもそも人の置き換えは起こらず、流行地域全般で人が減るだけだろう。たとえそこに新たな移住民が来たとしても、移住民もペストにかかって倒れるだけだ。
なので眉唾とは思うが、この説を採用している本が今後出てくる可能性もあるので、検索に引っかかるように嫌疑をここに書いておく。
ヨーロッパの初期農民の人口が減少した原因については、従来通り気候悪化に求めるほうがまだ無難だろうし、「ウマと車輪」以外でヤムナヤ文化の人々が拡散する理由は別に探したほうがいいと思う。
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・参考までに、いままでのペストに関する記事
現時点で最古のペストの証拠を発見、3,800年前 ※これが2018年時点で話題となった研究
https://55096962.seesaa.net/article/201806article_14.html
スウェーデンで最古のペスト菌の痕跡発見、起源地と拡散の既存説に矛盾 ※上記とほぼ同時期の研究
https://55096962.seesaa.net/article/201812article_10.html
古代のペスト菌はそんなに凶悪じゃなかった。という説が強化される ※これがあるので、古代人の感染率と致死率がリンクしない可能性あり
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_3.html
「紀元前2000年にブリテン島に住む人が90%入れ替わった」説の問題点を記載しておく。 ※この時点でもペスト説はあった
https://55096962.seesaa.net/article/201902article_12.html
エジプトから始まった古代のペスト・パンデミック、「ユスティニアヌスのペスト」の菌がヨルダンで分離される ※これは大規模に流行するようになった時代のペスト
https://55096962.seesaa.net/article/517815502.html
・あと、ヤムナヤ文化と「ウマと車輪」の旧説が読みたい人は以下の本に概要が載っている
本が出て数年なのにもう書き換え必要な箇所があるという現実、「人類の起源」
https://55096962.seesaa.net/article/505777485.html