蚕を守るものとしての猫…と、その仲間たち:養蚕にまつわる民間信仰の中の猫・ヘビ・ムカデ

以前、猫稲荷というところに行って、養蚕を助けるものとして猫が祀られていることを知った。農作、穀物と結び避けられて祀られているならまだ分かるが、養蚕との結びつきは独特だなあと思ったのだ。

で、気になっていたので、養蚕に関する信仰の本を何冊か洗い出して読んでみた。
思っていたよりたくさんの神々が養蚕に関係していたのだが、大きく分けると3つになる。

1 仏教由来の蚕神(おそらく後付で蚕と結びつけられた渡来の神)
2 神道由来、もしくは地域信仰的な蚕神(金山姫とかオシラサマ)
3 どちらでもない(猫関連はここ)

3に属するものは、厳密には「神」ではなく、人の役に立つ化生(けしょう)とか、他の神の遣いとかに該当する霊かと思われる。
専用の神社を建てられるけではなく、別の神の神社の境内内にお社が同居しているとか、民家の庭先に一家の守り神のように小さな祭壇が設けられていたりするのが一般的なスタイルのようだ。確かに、発端となった「猫稲荷」も羽黒神社の参道の脇にあった。

そして、民間信仰についての情報が載っていた以下の本によると、猫のほかに「ムカデ」「ヘビ」も、蚕を守る存在として有難がられていたのだという。

蚕: 絹糸を吐く虫と日本人 - 畑中章宏
蚕: 絹糸を吐く虫と日本人 - 畑中章宏

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こちらは蛇の絵を描いた護符だ。かつて養蚕が盛んだった頃、人々は神社の遣いである白蛇を「借り」にいき、ぶじ一年過ぎて糸が取れたら蛇を「お返し」に行ったのだという。同様に、大ムカデが神の遣いとしてネズミ避けに信仰された地域もあり、そこではムカデの絵がお守りになっていた。

うちの田舎の四国だと、ヘビは穀物神として信仰されているものだから、蚕神にもなれるのか…とちょっと意外な気がした。そしてオオムカデって害を成す悪神だけじゃなく人に役立つ神にもなれたのか。
日本神話…いや民俗信仰の世界は奥が深い…。でも信仰されれば何でも神になれるのがこの八百万の国の基本ルールだから、確かに神なのだ。

また猫については、有名な新田のお殿様が描いた猫絵も養蚕のお守りとして使われていて、絹糸を海外に輸出する時に箱にその絵を貼り付けておいたという。
猫神信仰は主に東北だが、ムカデやヘビは群馬あたり。西国で同様の信仰があったと書いてある資料は見つからなかったため、おそらく東国特有のものなのだろう。

何冊か本を読んでみただけだが、養蚕は稲作以上にランダム予想があり、虫が育つか育たないか、良い糸を吐くか吐かないかは天に祈るようなものだったのだなと感じられた。それは天候や暦に関する知識が乏しかった古代世界の人々が自然に対して感じていた感情に通じるものがある。
自分ではどうにも出来ないものに頼らざるを得ない時、人は、「祈る」しか出来ないのだ。そして、その祈りは、恵みがもたらされた時には「感謝」に変わる。
自然への感謝。猫だけでなくヘビやムカデにすら感謝して生きていた謙虚な人々の暮らしは、奢った生き方に慣れてしまった現代の人間からは、どこか眩しくさえ思えるのだった。