フン族の王アッティラの名前と「小さな父ちゃん」という意味の根本: 本名が訛った結果そうなった
フン族の王アッティラ、というと、歴史好きな人は、あーなんか聞いたことあるなーと思う人も多いかしれない。
教会が堕落したのを罰するために遣わされた、という思想から「神の鞭」とも呼ばれた男。騎馬民族を率いてヨーロッパに侵入し、民族大移動を発生させたフン族の、全盛期の王。ローマの心胆を寒からしめた人物。伝説は数多けれど、実際のところはほとんど分かっていない。
何しろ5世紀の人物だ。日本でいうと、日本書紀を編纂していた時代よりも前の人物なのだから、記録があまり残っていないのは当然と言える。
だが、ソースに「ある」「ない」くらいは判定できる。
というわけで、アッティラの名前についての部分の情報をあらためてまとめておきたい。
というのも、「アッティラという名前は本名ではになくあだ名」「意味は"小さなお父ちゃん"である」という情報まではあちこちに出てくるのだが、その「アッティラ」という名前がどこから出てきたか書かれていることがめったにないからだ。
そしてAIが誤学習してしまっているるからだ…。
アッティラたちフン族はアジア方面からやってきた。匈奴と同一かどうかは諸説あるが、おそらく匈奴そのものではない。ただ同系統の民族で、テュルク語を使っていた可能性は高い。
その場合、本名はテュルク語系の名前だったとされる。
この名前が言いづらいので、フン族と衝突した/一部はフン族の配下に入ったヨーロッパのゲルマン系の民族は、ゲルマン語でそのテュルク語の名前を言い換えた。それが「アッティラ」。
つまり、何もないところから出てきたあだ名ではなく、正確には「ゲルマン語訛りになった本名」なのだ。
なので、元の名前は分からないのだが、訛った結果「Attila」=ゲルマン語で「小さな父ちゃん」という名前になったのは、別に部下がアッティラに親しみを覚えていたからつけたあだ名とかそういうのではなく、たまたまだった可能性が高い。
(あるいは、その「たまたま」が滑稽な名前になったので、背の低いアジア人をからかう意味で呼んでいたかもしれない。日本人がフィンランド人によくある●●ネンとつく名前を面白いと思うのと似た感性で。)
「小さな父ちゃん」という意味を持つ単語が当てられたのは「たまたま」で、偶然、本名がそう聞こえる名前だった、という話である。
そして、アッティラが生きていたのと同時代のラテン語資料に「アッティラ(Attila)」という名前が出てくるので、ローマでの呼び名も「アッティラ」だったのだろう。
逆に言うならば、ローマで「アッティラ」と呼ばれていたからこそ、テュルク語の本名はそれに近いものだったと見なせる。
これは、たとえばローマ人がエジプト人の名前を書き記す時、常に元のエジプト名をラテン語訛りにして記録していたことも根拠となる。全く系統の違う言語の、発音しづらい名前などは、耳に聞こえた音をそのまま転写して、自分たちの言いやすい名前に変えるのというのは良くある記録方法だった。
彼の本名は、一体何だったのだろう。
語学者の研究を見てみると、「馬」に関連すテュルク語の単語には at がついているものが多いらしく、どれを選択してもそれっぽい名前になるので見当がつかないらしい。
あまり夢のない話ではあるが、もしかしたらアッティラの本名は、その時代のフン族にはありふれたものだったのかもしれない。
なおアッティラの名前に関する記述ふくめフン族についての分かりやすい本は日本語で何冊も出ているので、裏どりをしたい人は自分で読んでみてほしい。
ヘタな伝説系の本よりは考古学寄りの証拠を採用している本をオススメしたい。

アッティラ大王とフン族 「神の鞭」と呼ばれた男 (講談社選書メチエ 503) - エッシェー,K., レベディンスキー,I., 新保 良明

アッチラとフン族 (文庫クセジュ 536) - ルイ アンビス, 安斎 和雄
*****
あとオマケ
衝撃のトルコ軍事博物館◆トルコに行ったら、アッティラがトルコ人の祖先扱いになっていた。
https://55096962.seesaa.net/article/201208article_11.html
トルコ人が祖先とする「テュルク」とは何者だったのか。ルーツとかアイデンティティとかについて
https://55096962.seesaa.net/article/500778871.html
トルコにおけるフン族の扱いはなかなかに衝撃的。歴史…とは…? みたいな顔になってしまう。
ヨーロッパ史における「民族大移動」という概念への批判と再構築について
https://55096962.seesaa.net/article/493604399.html
フン族とセットのように語られることの多い民族大移動という概念は、実は今ではあまり使われなくなっている。人が集まったり散らばったりを繰り返していて、人の質が均一ではないからだ。どこかから出発して、あちこちで定住してまた移動する、というのを繰り返しているうちに、後世する民族が全然違うものになっていたりすることもあり、実態として「民族」の移動ではないのでは、という批判があるからだ。
アッティラ王と戦神の剣 情報まとめ
https://55096962.seesaa.net/article/201311article_14.html
あと、これはゲームとかに使われがちな設定の史実部分を調べたもの。
そもそもフン族に剣を神聖視する風習があったのか、というところがポイントになってくる。スキタイに類似する風習はあったらしいが、別に剣自体を神聖視しているわけではないので、なんか話盛られてそうではある。
教会が堕落したのを罰するために遣わされた、という思想から「神の鞭」とも呼ばれた男。騎馬民族を率いてヨーロッパに侵入し、民族大移動を発生させたフン族の、全盛期の王。ローマの心胆を寒からしめた人物。伝説は数多けれど、実際のところはほとんど分かっていない。
何しろ5世紀の人物だ。日本でいうと、日本書紀を編纂していた時代よりも前の人物なのだから、記録があまり残っていないのは当然と言える。
だが、ソースに「ある」「ない」くらいは判定できる。
というわけで、アッティラの名前についての部分の情報をあらためてまとめておきたい。
というのも、「アッティラという名前は本名ではになくあだ名」「意味は"小さなお父ちゃん"である」という情報まではあちこちに出てくるのだが、その「アッティラ」という名前がどこから出てきたか書かれていることがめったにないからだ。
そしてAIが誤学習してしまっているるからだ…。
アッティラたちフン族はアジア方面からやってきた。匈奴と同一かどうかは諸説あるが、おそらく匈奴そのものではない。ただ同系統の民族で、テュルク語を使っていた可能性は高い。
その場合、本名はテュルク語系の名前だったとされる。
この名前が言いづらいので、フン族と衝突した/一部はフン族の配下に入ったヨーロッパのゲルマン系の民族は、ゲルマン語でそのテュルク語の名前を言い換えた。それが「アッティラ」。
つまり、何もないところから出てきたあだ名ではなく、正確には「ゲルマン語訛りになった本名」なのだ。
なので、元の名前は分からないのだが、訛った結果「Attila」=ゲルマン語で「小さな父ちゃん」という名前になったのは、別に部下がアッティラに親しみを覚えていたからつけたあだ名とかそういうのではなく、たまたまだった可能性が高い。
(あるいは、その「たまたま」が滑稽な名前になったので、背の低いアジア人をからかう意味で呼んでいたかもしれない。日本人がフィンランド人によくある●●ネンとつく名前を面白いと思うのと似た感性で。)
「小さな父ちゃん」という意味を持つ単語が当てられたのは「たまたま」で、偶然、本名がそう聞こえる名前だった、という話である。
そして、アッティラが生きていたのと同時代のラテン語資料に「アッティラ(Attila)」という名前が出てくるので、ローマでの呼び名も「アッティラ」だったのだろう。
逆に言うならば、ローマで「アッティラ」と呼ばれていたからこそ、テュルク語の本名はそれに近いものだったと見なせる。
これは、たとえばローマ人がエジプト人の名前を書き記す時、常に元のエジプト名をラテン語訛りにして記録していたことも根拠となる。全く系統の違う言語の、発音しづらい名前などは、耳に聞こえた音をそのまま転写して、自分たちの言いやすい名前に変えるのというのは良くある記録方法だった。
彼の本名は、一体何だったのだろう。
語学者の研究を見てみると、「馬」に関連すテュルク語の単語には at がついているものが多いらしく、どれを選択してもそれっぽい名前になるので見当がつかないらしい。
あまり夢のない話ではあるが、もしかしたらアッティラの本名は、その時代のフン族にはありふれたものだったのかもしれない。
なおアッティラの名前に関する記述ふくめフン族についての分かりやすい本は日本語で何冊も出ているので、裏どりをしたい人は自分で読んでみてほしい。
ヘタな伝説系の本よりは考古学寄りの証拠を採用している本をオススメしたい。

アッティラ大王とフン族 「神の鞭」と呼ばれた男 (講談社選書メチエ 503) - エッシェー,K., レベディンスキー,I., 新保 良明

アッチラとフン族 (文庫クセジュ 536) - ルイ アンビス, 安斎 和雄
*****
あとオマケ
衝撃のトルコ軍事博物館◆トルコに行ったら、アッティラがトルコ人の祖先扱いになっていた。
https://55096962.seesaa.net/article/201208article_11.html
トルコ人が祖先とする「テュルク」とは何者だったのか。ルーツとかアイデンティティとかについて
https://55096962.seesaa.net/article/500778871.html
トルコにおけるフン族の扱いはなかなかに衝撃的。歴史…とは…? みたいな顔になってしまう。
ヨーロッパ史における「民族大移動」という概念への批判と再構築について
https://55096962.seesaa.net/article/493604399.html
フン族とセットのように語られることの多い民族大移動という概念は、実は今ではあまり使われなくなっている。人が集まったり散らばったりを繰り返していて、人の質が均一ではないからだ。どこかから出発して、あちこちで定住してまた移動する、というのを繰り返しているうちに、後世する民族が全然違うものになっていたりすることもあり、実態として「民族」の移動ではないのでは、という批判があるからだ。
アッティラ王と戦神の剣 情報まとめ
https://55096962.seesaa.net/article/201311article_14.html
あと、これはゲームとかに使われがちな設定の史実部分を調べたもの。
そもそもフン族に剣を神聖視する風習があったのか、というところがポイントになってくる。スキタイに類似する風習はあったらしいが、別に剣自体を神聖視しているわけではないので、なんか話盛られてそうではある。