人間はこれからも進化する。「高山」というフロンティアに進出した人類の研究から

チベットに行った時、チベット人から面白いことを聞いた。「中国政府は中国人をチベットにたくさん移住させているが、あいつらは高山に適した体をしていないのでここに住むと早死する」「キツいからみんな、すぐ下界に戻るよ」。

高山に適した体ってなんだよ…慣れとかそういうのじゃないのか…? と思っていたのだが、帰国したあと調べてみると、実際にチベット人には高山に適した遺伝的な特性があり、酸素の薄い土地で有利な体をしていたのだ。具体的に言うと血中に含まれる、酸素運搬に使われるへグロビンの性能や量に差があり、標高が高い、酸素濃度が低い場所でも行動しやすくなっていた。

チベット高地と人類の高地順応~高地の人々はいつから高地に適応したのか
https://55096962.seesaa.net/article/202001article_13.html

世界三大高地と人類の高地順応~高地の人々の高度順応戦略とその代償
https://55096962.seesaa.net/article/202001article_15.html

これは、実はチベットだけではなく、他の高地でも住民は類似する変異を持っている。アフリカの高山帯であるエチオピアでも、新大陸のアンデス山地でもそれぞれ独自に進化した「高地仕様」の体が進化しているのだ。
チベットの場合は、最初にこの地に進出したデニソワ人に発生した有利な変異を引き継いだとされているが、エチオピアの住民はデニソワ人と交雑していないので、別系統にオリジナルで高山仕様の変異を進化させたと考えられる。

ヒトの進化というと、脳を巨大化させたことばかり取り沙汰されがちなのだが、実際にはそれだけではない。
そして、ヒトは体の機能を進化させる代わりに道具などを生み出して環境に適応してきた、と述べられることが多いが、実際はそうではない。自分たちの肉体、ハードウェア的な部分も進化させて対応することが出来るのだ。

高山に進出した人類のハードウェア部分の研究はいまも進んでおり、最近出た論文だと「血流を増やしたりヘモグロビンを増やしたりすると早死リスクも上がるので、やりすぎない程度に調整する機能が備わっている」という内容のものもあった。

人類はまだ、より高み(文字通りの)への挑戦を続けているのだ。


ヒトの進化は停まっていないし、いまも進化し続けている
進出したフロンティアの先にある環境が未知なるものなら、その環境に適した進化をすることが出来る。

これは、たとえば「宇宙」や「火星」などに進出した時、人類が、その新たな環境に適して何かを進化させる可能性を示唆している。
今時点で考えられるのは、窓の外の変わらない風景や狭い宇宙船内の暮らしなどに適応してストレス耐性を上げる、とかだろうか。脳内物質の分泌パターンが変化するというのはわりと簡単に発生しそうな変異だ。
また、目に関する進化もありそうだなと思っている。紫外線に強くなるとか、目に頼らず別の感覚器を使うようになるとか。

繰り返すが、これは、ソフトウェア的な進化ではなくハードウェア的な進化、「そそも体の機能の作りが変わる」という部分についての話である。
慣れとか訓練によって変化するソフトウェア的な部分ではない。

ソフトウェア的なというのは、たとえば、ショート動画を見まくっていると、その刺激に適応して興奮物質を出して楽しくなれる、とかである。私などはショート動画を見るとイライラしてストレスにしかならず本読むほうが全然楽しいのだが、逆に読書がストレトになる人もいるという。脳に与える刺激によってソフトウェア的な部分が人によって変化しているのだと思う。

また、親世代には「一日中パソコン画面に向かうのがムリ」という人も結構いる。私などは苦にならない。ソフトウェア的な部分については、おそらく、若い頃に訓練して慣れるかどうかが、分かれ道になっているのだと思う。

ハードウェア的な進化とは、そうしたソフトウェア的な部分を越えて、そもそもの機能の作りを変えていくものなので、ヘタしたら何万年かかかるだろう。人類が宇宙に進出したあと何万年か経過したあとの世界と、そこに住む新人類は果たしてどうなっているのか。
決して自分には見ることの出来ない世界なのだが、人類がしぶとく生き残っていてくれることを願いたい。