5,500年前のバイカル湖周辺のペスト感染状況についての調査:これ全滅してる家系けっこうあるんでは?

古代のペストについての記事は過去に何本か書いているので、まずはそこからおさらい。
論文内でも言及されている過去研究は、↓のあたり。

「ヨーロッパの古代民はペストで壊滅した」ヤムナヤ文化との入れ替わりが病原菌起因という説について調べてみた
https://55096962.seesaa.net/article/520407368.html

古代のペスト菌はそんなに凶悪じゃなかった。という説が強化される
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_3.html

これを知った上で今回出た新しい論文を読むとわかりやすい。

Lethal plague outbreaks in Lake Baikal hunter-gatherers 5,500 years ago
https://www.nature.com/articles/s41586-026-10540-5

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今回調査されているのは5,500年前、つまり最古級のペスト感染の痕跡だ。人が死ぬと、人に寄生していた菌も一緒に死んでそこにDNAが残る。なので、DNA調査でヒト以外の遺伝情報が出てくれば、死の直前に感染していた可能性を検出できる。
今回はショットガンシーケンスという遺伝情報を断片にしてから増幅する方法で、ペスト菌のパターンにマッチするものが検出されるか調べているようだ。この方法だと、DNAが断片化している古い骨でもそこそこの精度で結果が出せる。

結果として、調査した人骨の39%からペスト菌の痕跡が検出されたという。かなりの高確率だ。
死者のミトコンドリアDNAが一致することからおそらく同じ母親から生まれた一世代以内の人ではないかともされ、ほぼ同時期にペストで大量死した可能性が高い。
また、感染は特に子供(8歳から11歳)で致命的だったようで、一世代ぶんの子供が全滅していそうだ。

とはいえ、調査の母数が全体で40人、最も多い遺跡で35人中11人の感染(確率で書くと35%)なので、中世ヨーロッパの黒死病流行でいう「街全体の3割感染」などとは全く規模の違う話だ。少人数で暮らしていた狩猟採集民の時代には、ひとつの家族が全滅するくらいの勢いなので致命傷だっただろう、というだけで…。

このバイカル湖周辺の地域には、シベリアマーモット(Marmota sibirica)というペスト菌の宿主が知られているという。
マーモットの肉や毛皮を目的とした狩猟は19世紀まで盛んに行われており、主に、狩猟を行う男性で皮剥ぎや解体作業中に感染するケースが頻発していたという。つまり近代までペストが風土病だった地域なのだ。
あと生焼けのマーモットの肉食ったりしても感染するらしく、そりゃ感染避けられんわなぁという感じ。たぶんこれ、感染源に気づくまで定期的に一家全滅してたパターンじゃないかな…。


そして、今回の調査でペスト菌の集団感染の歴史がさらに古くまで遡ったことによって判ったのは、

・ペスト菌の大流行はヒトが農耕をはじめることによって定住・集住しはじめたことが原因ではない、小集団で暮らしていた狩猟採集民でも感染はあった
・むしろ狩猟採集民が最初に感染して、そこから定住農耕民に感染させたのでは
・繰り返しヒトに感染することによってペスト菌が変化していったのではないか、つまりペスト菌が強毒化する進化にヒトも関わっていたのではないか

ということ。さらに、

・保菌者である野生動物の生息地は複数あり、それぞれの土地で風土病化していた可能性が高い
・ヒトの移動範囲が広がることによって、複数の土地の異なる系統のペスト菌がまじりあって新種爆誕した可能性があるのでは

といったことも考えられる。
つまり、「ユスティニアヌスのペスト」で大流行を引き起こす何千年も前から、感染力と致死率の上がったペスト菌が出現して大量死を引き起こす未来へのカウントダウンは、始まっていたのではないだろうか。

よくそれで生き残れたな人類、やっぱ数の多さと環境適応能力の高さが有利だったのか。
ほかの研究だと、「ペスト菌に繰り返し感染したことで遺伝的に感染有利な人間が生き残ったのでは」というものを見かけたこともあるので、ヒトとかいう種族、わりとに関しては侮れない生き物だと思うんですよね。(ヒトナー目線)