日本古来の宗教では山はご神体。だが古代エジプトにも「山がご神体」の女神様がいるぞ

エジプト神話詳しい人なら、タイトルだけで「あーあの女神様ね」と分かったかもしれないが、少々の前口上にお付き合い願いたい。

日本では、山そのものがご神体の女神様が何柱もいる。有名どころでは富士山をコノハナサクヤヒメの象徴とする信仰。
山がちな国で、特徴的な美しい山容の山も多いだけに、山岳信仰の歴史は古く、数や種類が豊富なのは当然と言える。

だが、実は目立った山の少ないエジプトにも、山をご神体をする女神様がいる。
それが、新王国時代に王墓の作られていた「王家の谷」の守護神、メルセゲル女神様である。

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この山は、標高420mほどの高さしかないが、王家の谷の正面のよく目立つ場所に存在する。観光に行って写真撮るとたぶんどこかには映り込むはず。現代名はエル・クルン、意味は「角の丘」であり、尖った山頂を特徴としている。
古代エジプトの人々は、この山の形を天然のピラミッドに見立てていたと考えられている。
つまり、形の特異な山に神格を見出すという、日本の山岳信仰と同じ思考によって生み出された女神と言える。

場所からして分かるとおり、この女神は王家の墓所を見守る守護神であり、特に墓づくり職人や、近隣に住む住民に厚く信仰された。
信仰を集める山がふもとの住民に畏怖されるというのも、日本の山岳信仰と同じ構図だ。

彼女への信仰は、王家の谷での墓づくりが最盛期を迎えた新王国時代に頂点に達するが、その後、谷での墓づくりが行われなくなっていく新王国時代の末期には信仰が廃れてゆくことになる。
富士山みたいな全国メジャーデビューはせず、最初から最後まで、ローカルな地方アイドル(偶像)的女神様で終わる感じ。

とはいえ、神殿も神像もなくとも山はご神体が維持されるのが、山岳信仰の強みでもある。神像は棄損されやすいが、山は滅多なことでは失われない。
静寂の女神は今日も、過去と同じ美しい姿のまま谷の奥に佇んで、訪れる人間たちを見下ろしているのであった。