科学の体裁を借りて明後日の方角に行ってしまった謎論文「月神トートの神聖動物に狒々がいるのは体毛の反射光が理由!」
古代エジプトの神々には、神聖動物と呼ばれる動物の化身がある。有名どころだと猫の姿をとるバステト女神。頭がネコの女性形態の時もあれば、完全な猫型の時もある。
同じように、知恵の神、月神トート(トト、より古い時代にはジェフウティとも)には、神聖動物として黒トキとヒヒの二種類の姿が設定されている。
トキについては、ピラミッド・テキストの中に既に鳥としての姿があるため古い時代からあるものだと分かるし、季節によって行動を変えることから季節の運行を正確に認識しているとされることや、長い嘴がペンに例えられることから、知恵の神の姿としては相応しいとされている。
ただ、ヒヒについては何で月神なのか判らない、とこの論文は述べている。
そしてそこから、「ヒヒの灰色の体毛が反射する光が月光のスペクトルに似てる! だから月神にされたんだ!」という、えらいぶっ飛んだ方向の結論を出してきている。
Moonlight and the apotheosis of sacred baboons
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1751696X.2026.2696260

いや、あの…。
神聖化されたヒヒの体毛が銀色に輝くこと、古代エジプト人が月を「銀の太陽」と呼んでいたことは昔からよく知られていて、エジプト本では関連づけられて語られていましたが???
ていうか見れば「ああ月光になぞらえたのね」って分かりませんかねこれ。わざわざ反射光のスペクトルとか調べる意味…あった…?
しかも著者たぶんこれ、エジプト神話の本読んでないな…。
もともと狒々の神として「ヘジュ・ウル」(偉大なる銀のもの)という神名があり、その神は月とサイコロゲームをして(つまり知恵を使って)、ほぼイカサマのようにして勝利して時の管理権を引き継いだ、という神話もある。とすれば、狒々の身体の色が月光に似ているのなんか最初から当たり前の話で、そこから月にまつわる神話が生まれ、似た属性を持つ別の知恵の神であるトト神に姿や名前、神話などが合体した、と考えるのが妥当だろう。
トト神の持つ「時の管理者」という肩書きすら、もとは狒々の神のほうが持っていたもので、トキの姿と時間の運行が結びつけられたのは後付けだった可能性もある。
ちなみに複数の神聖動物を持つ神は他にもいて、ムト女神はハゲワシと雌ライオンの姿を持つ。これは雌獅子であるセクメト女神の神話や属性の一部を吸収する際にライオンの姿も引き継いだもの。アメン神は完全な男性の姿と牡羊とヘビの姿を持つが、ヘビの姿は原初の神々と結びつけられた時に得たもの、男性の姿はテーベの元々の守護神だったモントゥ神の姿をパクったもの、牡羊は生殖の神としての属性なのでミン神かクヌム神から引き継いだ可能性がある。
つまり神々が複数の姿を持つ時は、別の神の属性や役割を、その姿とともに引き継いだ可能性が高い。最初に検討すべきだったのは、見た目とか動物としての行動うんぬんより、まずその神がどういう経緯で信仰されてきたかの考古学的な情報だった。
なお、この論文の最後に出てくるホラポッロは、ヒエログリフをオカルト的に解釈した人であり、古代エジプトの研究をする上では全く参考にならない。
これを引用してるあたり根本的に研究の方向が間違えているとしか思えない。
※日本語訳も出ているので、興味ある人は図書館などで探してみてほしい

ヒエログリフ集 (エンブレム原典叢書 3) - ホラポッロ, 石井 朗, 伊藤 博明
多分これ、エジプト学者が読んだらツッコミまくる論文じゃないかと思うんですが…。
同じように、知恵の神、月神トート(トト、より古い時代にはジェフウティとも)には、神聖動物として黒トキとヒヒの二種類の姿が設定されている。
トキについては、ピラミッド・テキストの中に既に鳥としての姿があるため古い時代からあるものだと分かるし、季節によって行動を変えることから季節の運行を正確に認識しているとされることや、長い嘴がペンに例えられることから、知恵の神の姿としては相応しいとされている。
ただ、ヒヒについては何で月神なのか判らない、とこの論文は述べている。
そしてそこから、「ヒヒの灰色の体毛が反射する光が月光のスペクトルに似てる! だから月神にされたんだ!」という、えらいぶっ飛んだ方向の結論を出してきている。
Moonlight and the apotheosis of sacred baboons
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1751696X.2026.2696260
いや、あの…。
神聖化されたヒヒの体毛が銀色に輝くこと、古代エジプト人が月を「銀の太陽」と呼んでいたことは昔からよく知られていて、エジプト本では関連づけられて語られていましたが???
ていうか見れば「ああ月光になぞらえたのね」って分かりませんかねこれ。わざわざ反射光のスペクトルとか調べる意味…あった…?
しかも著者たぶんこれ、エジプト神話の本読んでないな…。
もともと狒々の神として「ヘジュ・ウル」(偉大なる銀のもの)という神名があり、その神は月とサイコロゲームをして(つまり知恵を使って)、ほぼイカサマのようにして勝利して時の管理権を引き継いだ、という神話もある。とすれば、狒々の身体の色が月光に似ているのなんか最初から当たり前の話で、そこから月にまつわる神話が生まれ、似た属性を持つ別の知恵の神であるトト神に姿や名前、神話などが合体した、と考えるのが妥当だろう。
トト神の持つ「時の管理者」という肩書きすら、もとは狒々の神のほうが持っていたもので、トキの姿と時間の運行が結びつけられたのは後付けだった可能性もある。
ちなみに複数の神聖動物を持つ神は他にもいて、ムト女神はハゲワシと雌ライオンの姿を持つ。これは雌獅子であるセクメト女神の神話や属性の一部を吸収する際にライオンの姿も引き継いだもの。アメン神は完全な男性の姿と牡羊とヘビの姿を持つが、ヘビの姿は原初の神々と結びつけられた時に得たもの、男性の姿はテーベの元々の守護神だったモントゥ神の姿をパクったもの、牡羊は生殖の神としての属性なのでミン神かクヌム神から引き継いだ可能性がある。
つまり神々が複数の姿を持つ時は、別の神の属性や役割を、その姿とともに引き継いだ可能性が高い。最初に検討すべきだったのは、見た目とか動物としての行動うんぬんより、まずその神がどういう経緯で信仰されてきたかの考古学的な情報だった。
なお、この論文の最後に出てくるホラポッロは、ヒエログリフをオカルト的に解釈した人であり、古代エジプトの研究をする上では全く参考にならない。
これを引用してるあたり根本的に研究の方向が間違えているとしか思えない。
※日本語訳も出ているので、興味ある人は図書館などで探してみてほしい

ヒエログリフ集 (エンブレム原典叢書 3) - ホラポッロ, 石井 朗, 伊藤 博明
多分これ、エジプト学者が読んだらツッコミまくる論文じゃないかと思うんですが…。