5万5千年前のアラビア半島にいたのは現生人類か、ネアンデルタールか。議論の続きが論文で出てたので読んでみた

まず、この論文の話をする前に前提を説明しておきたい。

かつては、ホモ・サピエンスの「出アフリカ」は一回もしくは二回程度考えられ、「なぜそのような特異な状況が起きたのか」と論じられてきた。
しかし最近の研究では、「実は何回も出たり入ったりしていた。我々はその中でも最も遠くまで出かけた人々の子孫に過ぎない」というのが定説になっている。気候条件がいい時には遠くまで出かけ、悪くなると別の場所に移動する、というのを繰り返していた痕跡が見つかっているのだ。

アフリカの隣、アラビア半島では実際に、雨量が増えて緑地が広がるたびに人間が活動範囲を広げた痕跡が見つかっている。
その内容は、以下の2021年あたりに書いた記事でまとめた。

人類、アフリカを出たり入ったり。アラビア半島の砂漠から数々の証拠が見つかる
https://55096962.seesaa.net/article/202109article_5.html

ただ、この痕跡がホモ・サピエンスのものなのか、ネアンデルタールのものなのかが判らなかった。
隣接するアフリカ東部にはホモ・サピエンスがおり、アラビア半島より北部のレバント地方にはネアンデルタールがいた。(より新しい時代になるとレバントに現生人類が進出してくるので、両方混在するようにもなる)

アラビア半島の人類の痕跡は、人骨が全く見つからず、石器のみ見つかっているのだが、使われている技法はルヴァロワ技法で、ホモ・サピエンスもネアンデルタールも使っていた技法のため、区別がつかないのである。
で、何年もずっと議論が続いていた。

ここまでが前提。


で、今回出た論文では、「同じルヴァロワ技法でも若干の差があるので、確実にホモ・サピエンスが作ったと分かる石器と、確実にネアンデルタールが作ったと分かる石器の統計を取って、アラビア半島から出た石器がどっちに近いか調べてみよう」という手法を使って議論を進めようとしている。

結果としてネアンデルタールに近そうだ、となったようだが、正直これは統計の取り方にもよるので、結論としては弱い。
やはり人骨が出ないことにはなあ…と思うのだが、手法としては面白いので紹介しておく。

Neanderthals in the desert? Population history best explains Middle Palaeolithic technological heterogeneity in Arabia
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379126004051?via%3Dihub

データ元として使っている遺跡は以下。確実にホモ・サピエンスがいた遺跡は赤い★、ネアンデルタールは紫色の★。
レバントの遺跡は7万年前~5,5万年前まではホモ・サピエンスがまだ進出していないのでネアンデルタールの遺跡として扱う。逆に同時代の東アフリカはホモ・サピエンスしかいないのでホモ・サピエンスの遺跡として扱う。

wwtyu.png

内訳はtable.2に詳しく書かれている。

なお石器における「ブランク(blank)」とは母型、石器の形を最終的に整える前に荒削りにした状態を指す言葉。ブランク・サイズというのは、石器を作る前にどの程度の大きさ・精度で石を割るか、という部分になる。
そのサイズ差がtable.5なのだが、ぱっと見、なんかほとんど違わなくない? となると思う。まあ、思いっきり違ってたらそもそも、同じ「ルヴァロワ技法」という名前では呼ばれないはずなので…。

回帰分析を使って「ネアンデルタール人由来である確率が70%以上ある」、というのが今回の結論なのだが、70%は決して高い数値ではない。というか、この程度の際だと、少し時代をずらしたサンプルの遺跡が1つ増えただけでもかなり変動しそうな気がする。
なので結論を手放しで受け入れるのは難しいのだが、もしアラビア半島に進出していた人類がネアンデルタールだったとしたら、ホモ・サピエンスとネアンデルタールが最初に出会ったのはレバントではなくアラビア半島だった可能性も出てくるかもしれない。

というか、今回調べられているアラビア半島の石器の見つかっている遺跡のうち1つはホモ・サピエンスが作った確率が高く出ているので、実際には両方進出していたと見なすほうが妥当なのでは? という気もする。
まあ人骨が出てこないことには確定的な答えは出ないので、これからも議論は続くのだろう。

せめて、環境DNAで人類のゲノム情報が拾えればいいんですけどね。
乾燥してるわ暑いわで難しいらしいんですよね、この地域。