ツタンカーメン王墓に収められていた二体の胎児ミイラの謎。なぜ母親ではなく父親の墓に入れたのか

ツタンカーメン王の墓に、彼の実子とされる二体の胎児のミイラが収められていたことは有名だ。
二体はどちらも女児で、妊娠25週と37週だったとされる。これらの子供たちのいずれかが生きて生まれていたら、その後の歴史は変わっていたか、少なくとも「王家が完全に断絶」とはならなかった可能性が高い。

だが、そこより何より、そもそも「何で王墓に子供のミイラが入ってんの?」というのが私はずっと気になっていた。
歴代の国王の中に、自分の子供(胎児)のミイラと一緒に墓に入った人がいないからである。

王妃や王女ならばあり得る。
というかエジプトでもそうだが、世界中の胎児の埋葬を見回してみても、胎児と埋葬されるのはほぼ常に「母親」である。これは出産時に母子ともに命を落とすケースが多かったからでもあるのだが、ツタンカーメン王墓の場合、胎児のみで母親は埋葬されていないので、流産はしても母親は生存していたからなのだろうか。

(とはいえ、37週という出産直前の週齢で流産して、母体が無傷などということが古代の医療レベルでありえるのか自分には少し疑わしく思える。ましてや現状の説では、胎児は二人とも正妻アンケセナーメンの子とされている。この週齢で短期間に二度流産して無事でいられるのかは、産科の人の意見も聞きたいところだ)

また、母親が生存していたとしても、一定年齢に達していない子供は単独でミイラ化されないのが一般的であり、実際、古代エジプトの大量に見つかっている墓の中でも、胎児のミイラは、出産と同時に母親が亡くなって同時に埋葬されているケース以外ほとんど無い。単独でミイラ化されて棺に入れられているのは、おそらくツタンカーメンの墓がほぼ唯一なのではないだろうか。

この特殊な状況に対し、「王はきっと娘の死に心を痛め、重要なこととして扱っていたのだろう」とか「深い愛情から娘の遺体を手放したくなくて側においていたのだろう」といった理由づけがされるのはよく見かけるが、冷静に考えて欲しい。実子だとしても、妻が流産した胎児をミイラにして何年も手元に置いておくような父親は果たして正常なのか。

もしも愛情があったなら、子供に名前くらいはつけるのではないか? 棺には、娘たちの名前は書かれておらず、死後の世界に送るための呪文が別個に供えられているわけでもなかった。両親が名前をつけなかったせいで、これらのミイラは現状、胎児のミイラA(遺物番号317a)とB(遺物番号317b)でしかない。
神々の名簿に名前が載らないのだから、これでは死後の楽園に入ることすら出来ない。


既存説のまま、これらの子どもたちの母親が同一で、アンケセナーメンだったと考えた場合、これらの死体は、ミイラ化されたあと最低でも何年かは、墓にも入れず保管されていたことになる。
また、父親とされるツタンカーメンの死と同時に死んだわけではないはずなので、ツタンカーメンの墓が作られたときに、何らかの理由で同時に埋葬されたことになる。

また、もしも母親が子供の死を受け入れられずに流産した我が子をミイラ化して保管していたのなら、父親の死の際にその墓に入れられることは考えづらい。すると子供にこだわったのはツタンカーメンのほうだったことになるが、もしそうならばミイラ化した娘の遺体を名前すらつけず、モノとして自分の身近に保管し続けたことになり、だいぶ頭おかしい人になってしまう。


ならば既存説がそもそも間違ってるんじゃない…? と、思うのだ。

たとえば、これらの子供はツタンカーメンの死亡時にはまだ正室もしくは側室の王妃の胎内にいて、墓が閉じられる前、もしくは閉じた直後に流産したのではないか。
その場合、「ついでだし一緒に入れとくか」で遺体を追葬する余地も生まれる。
また、ツタンカーメンが側室を持たなかったとする証拠もなく、他の王たちがそうであったように正妻アンケセナーメン以外にも位の低い王妃を持っていた可能性はあり、実際に流産したのがそれらの王妃だった場合には、母親と同じ墓に収められないということもあり得るだろう。
(胎児のDNAはほぼ取れておらず、2008年のDNA鑑定での結果はかなり疑わしいため、アンケセナーメンの子とする説は確定ではないと考えている)

ちなみに古代エジプトの場合、王が死んだあと70日かけてミイラ化するのだが、その葬式を取り仕切ってミイラの口開けの儀式を行った人が「次の王」となる習わしがある。つまり、正式に次の王が即位するまでの2ヶ月強はまだ前王の治世にカウントされる。その期間にこの世に出てきた子であれば、王の子として扱われる(=庶民の子のようにそのへんに適当に埋葬出来ない)だろうと思うのだ。

そもそも、ツタンカーメン墓に収められていた胎児が、父親より「前」に亡くなっていたとする確固たる証拠はない。
少し前なのか、同時期なのか、数カ月後なのか。それによってもだいぶストーリーは変わる。

そして、母親ではなく父親の墓に胎児を収めるというのは、かなり異常な埋葬方法だと思う。これを何の疑問も抱かずに流してはいけない。
子供を産むのも流産したのも母親なのに、なぜ父親が胎児を抱いてあの世へいくのか。母親どこいった。あと母体は無事なのかこれ?
今までどの本読んでも、納得のいく説が書かれていないんだよ。

状況証拠しかないからどう推測しても小説の世界になってしまうのは分かっているが、せめて一般常識的にあり得る説を提示してほしい…。