あらゆる意味で「いつもどおりだな…」という本「古代エジプト人の愉快な日常」

ふらりと本屋に入ったら新刊コーナーに積んであったので(以下略)

タイトルも帯も軽いノリで、一般読者向けの本なのだが、実は内容はけっこう濃い。というのも、この著者は古代エジプト語の読み方を熟知しているので、どの本でも壁画とか碑文とか解読した内容を添えて解説してくれるからである。

古代エジプト人の愉快な日常 (文春新書) - 松本 弥
古代エジプト人の愉快な日常 (文春新書) - 松本 弥

古代のエロ草子の解読もしてくれており、「ペニス」「イく」などの厨二病ワードもしっかり出てくるので、中学生男子あたりにこの本を与えてヒエログリフを書き取りさせれば、エロ単語限定で古代エジプト語を暗記してくれそうであるw
まあ、こういう方向から興味を取り込んでいくのも戦略としては面白いよね。ちなみにこの著者の本は毎回、この手の「不真面目な」翻訳がどこかに入っているので、いつもどおりだなぁという感じ。

wty.JPG

何千年も前の古代のテキストとなれば、残っているものが限られる。
この本で取り上げられている代表的な文書は他の本でも出てくる定番なので内容はだいたい知っており、真新しいものはあまり無かったのだが、逆に言えば定番のテキストは一通り出てくるので、初学者の入り口にはおすすめできると思う。

それと、一つだけ記述が不正確なところがあるのを指摘しておく。
古代エジプトの農業で、麦の種まきが11月と書かれている箇所があったが、11月は最も遅い播種。エジプトは日本同様、南北に長い国である。日本で九州と東北のコメの作付けが1ヶ月以上ずれるのと同じように、エジプトでもルクソール以南とカイロ以北では1ヶ月以上ずれる。
そもそもルクソールとカイロでナイルの増水の始まり時期すら、水がゆっくり流れるためにずれていた。

また、ナイルの増水は、始まってからゆっくり水が増えて少しずつ耕地が水没し、またゆっくり水が引いていくものなので、増水が始まったから即農閑期、完全に終わるまで農耕が始められない、とかいうものではない。当然、早く水が引いたところから種まきしていくものなので、ナイル上流は早く、下流でも灌漑水路沿いは早くなる。実際には早いところだと9月末には播種期がスタートしていたはずだ。

これは、古代エジプトの季節名「ペレト」が伝統的に「播種季」と訳されてきたところから発生した勘違い。以前、コプトの農業歴と合わせて調べた内容としてまとめた。

また、この本の面白いところとして、あとがきがない。
そもそも長ったらしいあとがきを書かない著者ではあるのだが、1ページもあとがきがなく、最後のページまでひたすらエジプトの話を続けているのは潔いというか、まあこれも「いつもどおりだな…」という感じで、私は好きです。


*******
ちなみに、私のエジプト好きはここからスタートしているので、ある意味、原点に再び戻ってきました、くらいの本なのですよ…。