古代エジプトの絵画に使われている画材固定用の接着剤は何由来? 動物性の脂ではウシ成分が圧倒的という結果に
古代エジプトの棺の装飾や壁画などに使われている、絵の具を定着させるための材料は何で作られているのか、という成分分析の論文を見つけて、面白そうだったので読んでみた。
論文タイトルにある「paint binders」というのが下塗りに使う結合剤のことで、「adhesives」は接着剤。絵の具の顔料(古代エジプトだと墨や石材を砕いたものがメイン)に粘り気を持たせて絵から剥がれ落ちないようにしている。同じく石を砕いて顔料として使う日本画でいう、膠(にかわ)をイメージするとわかりやすいかと思う。
Beyond animal glue: Paleoproteomic analysis of paint binders and adhesives in ancient Egypt
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ady3618

分析対象は幅広く、紀元前1425年(新王国時代)から紀元後400年(ローマ属州時代)までのエジプトの遺物14点から採取した28点の塗料サンプル。大映博物館の収蔵品も使っているので、あっこれ図録で見たことある~ みたいなお馴染みの壁画も入ってる。
結果、ほとんどの接着剤はウシ由来の動物性タンパクと判明。他にヤギか羊(どちらかは同定されていない)、ロバ、ウマなど。時代が遅いものだと卵白も使用されているとか。
ウマについては新王国時代には既にいるのだが、馬は軍用以外に利用した記録はないため、軍用馬が死んだあとに再利用したのでは、とされている。
変わったところではレイヨウの成分が出ているようだが、これは野生の獣を狩ってきて油を使ったということか。
なお、今回の分析では出てきていないが、蜜蝋を使っていたケースも知られている。
また、ゴマとモリンガの種子から得られるタンパク質も検出されたとのことだが、これら二種類については、古代エジプトでは植物油としてポピュラー。
以前まとめた資料を参照。
古代エジプト人が使った「植物油」についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/503097017.html
モリンガは宗教的に特別な植物なので、その油を使うことにも意味があったのでは…的な記述もあったが、たぶんそれは考えすぎで、食用油としてはちょっと微妙だったか、他の油に比べて絵画に使いやすかったために優先で使われていたのでは…という気がする。
ただ、儀式用のオイルランプとして、もしくは棺などの場合はぶっかけ用の香油として使用した可能性もあるため、画材の一部として混ぜたかどうかは今後の検討が必要らしい。
また、麦の成分も若干検出されているようだが、これも捧げ物のパンなどから混入した可能性も否定できないとのこと。というか絵描きが昼飯でお弁当のパン食べただけでも絵の具に混入されるとのことなので、意図して入れたものか確かにわからんなという感じ。
いずれにしても、動物性油については確実に画材として混入されている可能性が高いので、ウシやその他の家畜の油が絵の具の定着剤として使われた、というのは言って良いと思う。古代エジプト絵画は牧畜の産物と連動していたのだ。
今後、分析サンプルが増えてゆけば、時代や地域、あるいは墓の壁画と棺など用途での違いも見えてくるかもしれないので、今後の研究を期待したい。
+++++
関連する過去の研究などは以下。今まで古代エジプトの美術品の成分分析ってあんまり無かったのが、最近色々調べられるようになってきて従来の説が書き換わったりしてます。美術史観点からの古代エジプトも面白いと思うよ!!
古代エジプト遺物だが美術様式的にはギリシャ、「ファイユーム・ポートレート」の科学分析について
https://55096962.seesaa.net/article/499968162.html
蛍光X線分析で見る古代エジプトの墓壁画/描き直しの跡いろいろ
https://55096962.seesaa.net/article/500039665.html
「オールドマスターの黄色」は古代エジプトの時代から。壁画に使われた色彩研究の新事実
https://55096962.seesaa.net/article/201910article_18.html
論文タイトルにある「paint binders」というのが下塗りに使う結合剤のことで、「adhesives」は接着剤。絵の具の顔料(古代エジプトだと墨や石材を砕いたものがメイン)に粘り気を持たせて絵から剥がれ落ちないようにしている。同じく石を砕いて顔料として使う日本画でいう、膠(にかわ)をイメージするとわかりやすいかと思う。
Beyond animal glue: Paleoproteomic analysis of paint binders and adhesives in ancient Egypt
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ady3618
分析対象は幅広く、紀元前1425年(新王国時代)から紀元後400年(ローマ属州時代)までのエジプトの遺物14点から採取した28点の塗料サンプル。大映博物館の収蔵品も使っているので、あっこれ図録で見たことある~ みたいなお馴染みの壁画も入ってる。
結果、ほとんどの接着剤はウシ由来の動物性タンパクと判明。他にヤギか羊(どちらかは同定されていない)、ロバ、ウマなど。時代が遅いものだと卵白も使用されているとか。
ウマについては新王国時代には既にいるのだが、馬は軍用以外に利用した記録はないため、軍用馬が死んだあとに再利用したのでは、とされている。
変わったところではレイヨウの成分が出ているようだが、これは野生の獣を狩ってきて油を使ったということか。
なお、今回の分析では出てきていないが、蜜蝋を使っていたケースも知られている。
また、ゴマとモリンガの種子から得られるタンパク質も検出されたとのことだが、これら二種類については、古代エジプトでは植物油としてポピュラー。
以前まとめた資料を参照。
古代エジプト人が使った「植物油」についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/503097017.html
モリンガは宗教的に特別な植物なので、その油を使うことにも意味があったのでは…的な記述もあったが、たぶんそれは考えすぎで、食用油としてはちょっと微妙だったか、他の油に比べて絵画に使いやすかったために優先で使われていたのでは…という気がする。
ただ、儀式用のオイルランプとして、もしくは棺などの場合はぶっかけ用の香油として使用した可能性もあるため、画材の一部として混ぜたかどうかは今後の検討が必要らしい。
また、麦の成分も若干検出されているようだが、これも捧げ物のパンなどから混入した可能性も否定できないとのこと。というか絵描きが昼飯でお弁当のパン食べただけでも絵の具に混入されるとのことなので、意図して入れたものか確かにわからんなという感じ。
いずれにしても、動物性油については確実に画材として混入されている可能性が高いので、ウシやその他の家畜の油が絵の具の定着剤として使われた、というのは言って良いと思う。古代エジプト絵画は牧畜の産物と連動していたのだ。
今後、分析サンプルが増えてゆけば、時代や地域、あるいは墓の壁画と棺など用途での違いも見えてくるかもしれないので、今後の研究を期待したい。
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関連する過去の研究などは以下。今まで古代エジプトの美術品の成分分析ってあんまり無かったのが、最近色々調べられるようになってきて従来の説が書き換わったりしてます。美術史観点からの古代エジプトも面白いと思うよ!!
古代エジプト遺物だが美術様式的にはギリシャ、「ファイユーム・ポートレート」の科学分析について
https://55096962.seesaa.net/article/499968162.html
蛍光X線分析で見る古代エジプトの墓壁画/描き直しの跡いろいろ
https://55096962.seesaa.net/article/500039665.html
「オールドマスターの黄色」は古代エジプトの時代から。壁画に使われた色彩研究の新事実
https://55096962.seesaa.net/article/201910article_18.html