10年前に否定された「ツタンカーメンの墓に隠し部屋が!」、まだやってた。そして墓の壁に穴開けて確かめるらしい。誰か止めろよ…

ツタンカーメンの墓に隠し部屋がある、という話題が流れていて、10年も前の話また蒸し返してんの? と思ったら、ほんとにまた蒸し返してた。

奥に「隠し部屋」か ツタンカーメン王墓で調査―エジプト
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026091900320&g=int

この話が話題になったのは2016年。既に10年が経過しており、隠し部屋があるという説は当時、既に否定されている。

この説を唱えたエジプト学者と当時の考古相が、隠し部屋があるに違いない! と言って壁に穴を開けようとしたが、不確かな情報で遺跡を毀損するのはいかがなものかと他の学者たちからストップがかかり、複数チームで再検討した結果、隠し部屋の存在する証拠が無く、棄却された。
今回再び話題になっているのは、当時の隠し部屋説を唱えた学者さんがまだ自説を諦めておらず、なんとしても証明してやると都合のいいデータを揃えてねじ込んできたからである。

そのためには、当然、過去に調査したチームの出した結論を科学的な根拠をもって覆さなければならないが、今回の報告はそこが出来ていないので論拠に乏しく、何だこれ…としか言いようがない。

いまさら、この説をもう一度持ち出して何としても墓に穴を開けようとする執念がどこから来ているのかサッパリ分からないのだが、とにかく、どうしても、どうしてもツタンカーメンの墓の壁をぶち抜いて破壊したいらしい。もはやただの個人的な盲信か、政治的な問題としか思えない。

が、それはともかく、あれから10年経ち、この騒動を知らない人/忘れている人も増えているかもしれないので、改めて、かつて起きたことを整理しておく。


【過去のおさらい】

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★全体の流れ

・2015年、王家の谷で長年発掘をしていたエジプト学者ニコラス・リーブスが、「ネフェルティティの墓はツタンカーメン王墓の奥に隠されているんだよ!」(ナ、ナンダッテー)という論文を発表、賛否両論で世界的に盛り上がる(多分)

・リーブスと長年組んできた日本の技術者、渡辺氏が墓の壁面をスキャン。奥には理論どおり部屋がある、と発表し盛り上がる

・ところが2016年の二回目のナショジオチームのスキャンでは空洞のある証拠が一切見つからず。

・4月に、考古学最高評議会の長官がチェンジ

・5月の国際会議で二回目のスキャン結果が明らかにされ、壁の奥に空間があるというのは疑わしいため三回目のスキャンをやり直すと発表された

・2018年、複数のチームが再調査、隠し部屋「なし」の最終結論

<以降、特に話題に上がることはなく、時は流れるが…。>

・今回の2026年の報告では「もともとネフェルティティの墓として計画されたことは事実のはず、未完成として壁を閉じただけで奥に空洞はある」と微妙に方向転換して、再度、隠し部屋の存在をアピール

・墓の壁に穴を開けて存在を証明するとの報道

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★ナショジオの記事

ツタンカーメンの墓を再びレーダー調査(2016年)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/040200120/

ツタンカーメン王墓の「隠し部屋」、迷走の真相(2016年)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/051100163/

当局発表:ツタンカーメンの隠し部屋はなかった(2018年)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/050800178/

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★このブログの記事

ツタンカーメン狂想曲に踊った人々と眺めてた人々 「隠し部屋」報道の裏にあったものとは
https://55096962.seesaa.net/article/201702article_14.html

相変わらず続報が出ません!ツタンカーメンの墓に隠し部屋はあるのか論争の最終結論
https://55096962.seesaa.net/article/201804article_1.html

【最終結論】ツタンカーメンの墓に隠し部屋は、ありませんでした。
https://55096962.seesaa.net/article/201805article_7.html

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【今回の報告】

An Archaeo-Geophysical Review and Assessment of the Structure and Morphology of Tutankhamun's Tomb (KV 62) (The Burial of Nefertiti? IV) (2026)
https://www.academia.edu/175580520/An_Archaeo_Geophysical_Review_and_Assessment_of_the_Structure_and_Morphology_of_Tutankhamuns_Tomb_KV_62_The_Burial_of_Nefertiti_IV_2026_

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今回新たに追加された情報の報告を見てみたが、ざっと見た感じ「短くね?」「データの全量は?」「ていうか前回のスキャンでも指摘されてた、壁からこんな奥まで地中レーダーで読み取れないっていう技術上の指摘はどこに…?」「何をもって前回までの複数チームのスキャン結果が不十分と言ってるのか分からない」という、疑問符ばかりが飛び交う内容。

よくこれを通したなというか、ネイチャーもよく名前使わせたよな、という感想。
いっかい穴開けちゃったらもう元に戻せないんだけど…こんなの根拠にされるのキッツくね…? マジで言ってんのか。


まず、事実として、ツタンカーメンの墓が王のものにしては小さい、というのは確かだ。
作りかけだった可能性があるというところまでは納得できる。しかし、もし隠された空間があるのなら、――この報告にあるような「部屋」の形でガッツリ作られていたのなら、敢えてその部屋を隠す必要がない。

少なくとも、他の同時代の墓では、未完成の部屋をわざわざ隠したりしていないからである。なんも装飾されていない荒削りな部屋がポツンとくっついてるとかはよくある構造。


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もしかしたら、部屋を作るつもりで通路まで掘ったが時間がなく、埋め戻したという空間はあるのかもしれない。
また王家の谷の岩盤にはクラックが入っている箇所も多いため、地下に自然に空洞がある可能性もある。その場合は、当然、地面に章の隙間があるように見えるだろう。

ただし、その場合は、この図のようにきれいな部屋の形が検出されることはない。こんな状態の空間が並んでいるというのは、とても有り得ない。
また、これだけ広大な空間があるのなら、2018年の最終報告までの間に調査したチームが既に検知しているだろう。他のチームに全く検知できず、「隠し部屋はある」と信じるチームにだけ見つけられれるのなら、それは信念から生み出された幻である可能性が高い。


そもそも、この説を唱えるリーブス博士の説、義母ネフェルティティの墓として計画されたものをツタンカーメンが流用した、もしくは共同で使用したという説自体に無理がある。

王家の墓で、義理の親子が墓を共有することは一般的ではない。(というか、おそらく事例として存在しない。私は知らない)

ハトシェプスト女王は、父トトメス1世と共同の墓を作ったが、これは実の親子だからであり、父の後継者は自分だと主張するためだったからだろう。なんでわざわざ義母と墓作るのか。実母でも妻でもなく。

また、10年前の説では「隠し部屋にはネフェルティティの墓がある」と主張していたものを、今回は「ネフェルティティの遺体があるか分からない」と微妙に説を変えているあたりも謎だ。その程度の根拠しかなかったのか。というか、隠し部屋さえあれば何でもいいのか…?

ネフェルティティは王家の人間ではなく、単に王と結婚しただけの一般人である。その彼女に、単独で王を名乗れる権威は存在しない。
エジプト史を通し、「女王」や「摂政」を名乗った王妃たち、または自ら権限を握って「王」と名乗った王妃も、全て王家の血を引く王女たちであり、例外はない。

エジプトの王家は血統によって権威を得る、日本の天皇家と似たシステムだからである。

その点、庶民出身のネフェルティティは、たとえ夫が生きている間は特別扱いされていたとしても、夫が死ねば、ただの庶民である。
改名して王として即位したのでは、とかアクロバティックな解釈をする必要はない。庶民出の王妃が王家の谷に単独の墓を作れるはずもない。

そして、そもそも死亡はアクエンアテンの治世14年目くらいではないかとされているので、その当時はまだアテン信仰が完全に終了していない。普通に考えればアマルナ東方の王家の墓所に埋葬するはずで、王家の谷に墓を作るとは考えにくい。

アマルナ王朝の未完成墓群と「作り切れなかった伝統」について/冥界神NGの世界観で墓を作るには
https://55096962.seesaa.net/article/521031673.html


何一つ筋が通っているようには見えず、前提からして無理がありすぎるのだ。
なんで根拠の薄いファンタジーにこだわり続けるのか分からない…。

前にも言ったが、自分が「こうだ」と信じる説に従って根拠を探し、もっともらしく並べて主張するのは、オカルトの思考である。
フラットに目の前にある証拠を並べ、最も無理無く解釈できる説を導き出すのが科学的な手法だ。

事実は信念によって変えられないし、変えようとしてはならない。



なおエジプトさん、最近も「メンカウラー王のピラミッドの周囲に落ちてる石を積み直して修復しよう!」というプロジェクトをやろうとして、他の国の専門家から「石がどこから落ちたかも分からないのに元通りに出来るわけないだろ」とツッコまれて撤回するハメになっている。

遺跡の保全という意識は薄く、観光資源としてしか見ていないのである。
話題性のためなら遺跡を毀損しようと構わない、くらいの勢いで思いつき行動してくるので、今回の話も話題作りのつもりなのかもしれない。

メンカウラー王のピラミッド修復プロジェクトにストップがかかる。議論の上で適切な進め方の検討へ(※追記あり)
https://55096962.seesaa.net/article/502263261.html

ただし、一度穴をあけた遺跡の壁は、二度と元の状態には戻せない。

不確かな情報で遺跡を毀損しようとするのなら、それは専門家が止めないといけないものだと思うのだが。